2025-02-04

野村泰紀著『なぜ重力は存在するのか』について

 大学受験時、私は理学部の生物学科を志望しました。 私の当初受験しようとしていた大学の理学部の受験科目は、学科に関わらず物理と化学だったので、私も物理と化学を勉強して入学しました。
 受験勉強では、化学は有機化合物の多さに、どこまで学習すればよいのかとまどい、物理はちょうどCGS単位系からMKSA単位系に移り変わろうとしていた時期だったこともあり、単位のややこしい多くの式と計算ばかりといった印象を持ちながら学習した記憶があります。
 私が理学部生物学科を志望したのは、自己の存在価値を含め、生きているとはどういうことなのかに関心があったからですが、物理や化学にはそのような「知りたい!」と思うようなことは勉強していても感じませんでした。
 大学卒業後は高校で理科の教員となり、教員免許状は理科ですから、物理や化学も教えねばならず(持ち時間調整上、実際に教えたこともあります)、物理や化学に関心を持ち続けるようにしていました。 物理分野では、高校レベルではあまり扱わないのですが、相対性理論や量子力学など、大きな変化が起こっていました。
 相対性理論や量子力学などは解説書も出版もされています。 しかし、光は粒でもあり波でもある、重力でゆがんだ空間などなど、どれもこれも分かったような分からないような・・・。 最近では、時間は存在しないとか、マルチバース(私たちの宇宙以外にも宇宙はたくさんある)などの解説書なども出版されていますし、Youtubeなどにもこれらに関する多くの動画がありますが、やはり分かったような分からないような・・・。 どこまでが確かなことで、どこまでが単なる説(一説にはそういうこと「も」考えられる)なのかも分かりません。
 そんな状態の私でしたが、(私にとっては)すばらしい本に出合うことができました。 『なぜ重力は存在するのか』(マガジンハウス、第1刷発行2024年7月25日、定価税込1100円)です。 著者はアメリカのバークレー理論物理学センター長の野村泰紀博士です。
 

 本書は、物理学全体の発展において中心的なテーマであり続けている重力(本書前書きより)を柱に、ガリレオ・ニュートンから、時間や超弦理論など最新の物理学まで、とても分かりやすく解説されています。 副題に「世界の「解像度」を上げる物理学超入門」とあるように、(私にとっては)物理学のおもしろさが分かり、物理学の扱っている内容に対する「解像度」が上がる本でした。 「分かったような分からないような」気分になるのも、イメージで理解しようとするからだということも分かりました。 本のカバーに書かれている「14歳でも理解る!」はどうか分かりませんが、ほとんど数式を使わずに本質を分かりやすく伝えてくれている本であることは確かです。
 本書は、なぜそのようなことが分かるようになったのかを、歴史的な経緯を踏まえ、ていねいに書かれてあるのですが、以下ではその経緯を略し、内容のいくつかをトピック的に書いておきます。 かなり略して書いているので、かえって分かりにくいかもしれませんが、新たな見方を与えてくれる本であることは、ある程度分かっていただけると思います。 なお、私が「このように理解した」という内容も一部含まれています。

・ 仮説を立て、実験で検証するという現在ではあたりまえの方法は、ガリレオが始めた。
・ 慣性の法則の深い意味:物理的に意味があるのはAとBの相対速度のみで、「AもBも動いている」と「Aは止まっていてBが動いている」は等価である。これがガリレオの「相対性原理」。
・ リンゴが落ちるのを見て万有引力を発見したというニュートンの逸話の本当は、「リンゴは木から落ちるのに、月はなぜ落ちてこないのか?」だった。このことから、宇宙も地上も同じ力が働いていることの発見につながった。
・ 光は電磁波の一種で、電磁波の速度はマクスウェル方程式を使って求められた。
・ ガリレオの相対性原理での速度という概念は相対速度。例えば車の速度は地面に対してである。 一方、マクスウェル方程式から求められる電磁波の速度は「○○に対して」が無く、誰から見てもいつも一定。 この矛盾を解消するために、時間も3次元空間の長さも一定ではないとしたのが特殊相対性理論。
・ 現代の物理学で「分かった」とするのは、イメージできることではない。 実験や観測から得られた結果を満足させられる数式を作り、その数式から導かれることが観測結果と矛盾しないことが「分かった」で、数式から導かれる結果から未知の事象に対する予言もできる。
・ 特殊相対性理論が使えるのは観測者(座標系)が等速直線運動をしている場合のみ。 これを加速度運動をしている場合にも使える(=重力も扱える)ようにしたのが一般相対性理論。
・ 相対性理論はさまざまな観測結果に合致するだけではなく、既に様々な方面で利用されている。 例えば、一般相対性理論では加速度や重力によって時間の進み方が変化するが、地球の周りを飛んでいるGPS衛星に働く重力は地上よりも弱く、GPS衛星の方が時間の進み方が速くなるため、時刻のずれを補正して利用している。 補正が無いとGPS衛星からの位置情報は1km以上ものズレが生じる。
・「光は粒でもあり波でもある」という説明よりは、「光は粒でも波でもなく、量子である」と考えればよい。
・ 量子とは、飛び飛びの値を取るとても小さなもののこと(本書では詳しく説明しています)で、電子もクォークも全て量子。この世は量子でできている。
・ 量子はとても不思議なふるまいをするが、これまでと違った現象は不思議に感じるもの。 そのうちに慣れるだろう。
・ 量子論もさまざまに応用されている。 コンピュータもスマホも量子論に基づいて動いている。 現在ではもっと根本的な量子の性質を利用した量子コンピュータの研究も進められている。
・ 質量はエネルギーに変換できる。 つまり質量とエネルギーは本質的に同じものだから、物質は現れたり消えたり(=エネルギーになったり)する。 量子論では消えた物質は扱えない。 それを記述できるようにしたのが「場の量子論」。
・ 「場」とは空間に対して影響を及ぼすもの。 ゆらいでいる場の盛り上がった所が粒子で、盛り上がった所があるなら“盛り下がった所”もあるはずで、それが反粒子。