2021-05-05

ヒラハイゴケ

 

 写真はヒラハイゴケ Stereodon erectiusculum だと思います。 岩上で育っていました。

 茎は這い、不規則に分枝しています。 蒴柄の長さは下の写真から換算して長さ3~4mmです。

 茎は這い、不規則に分枝しています。 蒴柄の長さは下の写真から換算して長さ3~4mmです。

 上は下部の片方が折り畳まれてしまいましたが、茎葉です。 茎葉は卵状披針形で漸尖し、葉縁上部には歯があります。

 翼部の細胞はあまり分化せず、葉縁に沿って方形~矩形の細胞が4~10個並びます。


 上の2枚は枝葉とその基部で、翼細胞は茎葉より少なくなっています。

 蒴は円筒形で曲がっています(上の写真)。

 蒴歯は2列で完全です(上の写真)。

 雌苞葉は披針形で、縦ひだがあります(上の写真)。

 上は茎の横断面で、表皮細胞は大きくて薄壁です。

(2021.4.15. 兵庫県養父市 天滝渓谷)

◎ ヒラハイゴケはこちらにも載せています。

2021-05-04

シゲリクラマゴケモドキ

 

 上の写真の右側の樹幹についたコケ、調べてみるとシゲリクラマゴケモドキ Porella densifolia var. fallax でした。

 湿らせた状態で、葉を含めた茎の幅は3mmほどです。 上は腹面から撮っていますので、背片の背縁が茎の反対側に張り出す一歩手前まで伸びていることは上の写真からは確認できませんが、背片の長さは2mmほどです。

 黄色い円で囲んだ所は雄花序で、各鱗片葉の間には造精器が作られます。 なお、本種は雌雄異株です。

 背片は葉先に1~3歯があり、縁は全縁でやや内曲しています。 腹片は舌形で、密に重なっています。 腹葉は舌形で葉先は円頭~やや凹み、葉縁はやや外曲しています。

 平凡社の図鑑のクラマゴケモドキ属の検索表では、①腹片と背片は合着してキールがあるか1点で接するか と ②腹片の腹縁基部は背縁基部の高さと比較してほぼ同じか低いか の2点がポイントになります。 本種は腹葉も腹片も密に重なっていて、そのままでは観察が難しいので、①と②が観察できるように邪魔な葉を取り除いたのが上の写真です。
 上の写真を見ると、キールはありませんし、腹片の腹縁基部は背縁基部より下にあります。 ちなみに、腹葉の基部がほとんど下延していないのも本種の特徴の1つでしょう。

 以下は背片、腹片、腹葉ですが、腹面から見た茎との関係を理解するため、茎を赤い線で表してみました。 断面が円い茎についている葉を平面にしたプレパラートですし、プレパラートにした時の葉の曲りもありますので、誤解を招く可能性もありますすが・・・。

背片

腹片 腹縁基部にひだがあります

腹葉

 上は葉身細胞です。 油体はたくさんあり、小さな楕円体で均質です。

(2021.4.15. 兵庫県養父市大屋町 三ノ宮神社)

◎ シゲリクラマゴケモドキはこちらにも載せています。



2021-05-03

フタバネゼニゴケ(不稔の雌器托や気室孔など)

 たくさんの雌器托をのばしているフタバネゼニゴケ Marchantia paleacea ssp. diptera の群落がありました。 この雌器托を上から見ると・・・

 まだ時期が少し早くて伸びきっていませんが、どの雌器托も傘の裂片のうちの2枚だけが発達していました。 和名の「二羽」はこの姿に由来するのでしょう。
 本種は雌雄異株で、雌株は雌器托の傘の下に造卵器をつけます。 この雌器托は受精が成立した場合は、こちらに載せたような裂け目のある円形の傘になりますが、受精できなかった場合は上のような姿になります。(こちらにはこの雌器托が褐色になった冬の姿を載せています。)

 上はこの傘の断面です。 傘の表面にはたくさんの気室孔があり、傘の裏面には造卵器が並んでいるのですが、半透明の細胞で形成されている造卵器は、上の写真ではよく分かりません。 下は上の写真の赤い四角で囲った部分の拡大です。

 造卵器の底(上の写真では上方)には卵細胞があります。

 上は傘表面の気室孔の拡大です。

 上は葉状体の断面です。 上の写真では気室孔が2つ写っていて、背面表皮の下には葉緑体をたくさん持った同化糸が集まって気室を形成しています。 その下の柔組織(髄質)に所々見られる色の濃い部分は油体細胞です。

 上は気室孔の断面の拡大です。 気室孔をとりまく樽型に配置した細胞は、気室孔に面する側が肥厚しています。 本種の気室孔の底はほとんど細胞で塞がれていて、細胞間が黄色の矢印で示した所でわわずかに開いているだけです。

(2012.4.30. 箕面公園)

◎ 本種の腹鱗片とその付属物や無性芽器の様子はこちらに載せています。

2021-05-02

葉を齧られたコツボゴケ

 昨日はいろいろ書きすぎたので、今日は昨日の補足を短めに。 

 上のコツボゴケは、茎頂部が齧り取られて無くなり、葉も中肋と舷を残して齧り取られています。 犯人は不明ですが、虫に取っては中肋や舷がそれなりに食べにくいものであることは分かります。

 コケはほとんど食害されないとよく言われます。 しかし未熟なうちに齧られた跡のある蒴はとてもよく見ますし、食べられた跡のある葉も時々見かけます。

 上はホソバオキナゴケですが、葉先か無くなっています。 刈り取られたように無くなっていますが、周囲の状況からして、草刈り機などによる人為的なものとは考えられません。 シカなどの草食動物がコケを食べることはあるのでしょうか?

 コケはリグニンが無いために高くなれないのですが、高くならないのも食べられることからの防御に役立っているのかもしれません。

2021-05-01

コツボゴケから吸汁するミドリハシリダニ科の一種を見て考えたこと

 上はコツボゴケの上を走り回るミドリハシリダニ科の一種です。 コケテラリウムのガラス越しに撮影しましたので、画像はイマイチですが・・・。 ダニは種類も多く、このダニは植物からの吸汁だけで人に対する危害は心配ありません。
 小さい体のわりには速く動きます。 胴体は黒色に近い深緑色で、肢が赤く、なかなか美しいダニなのですが、夏季には土に潜って休眠しますので、見られるのは春と秋です。 今年もそろそろ見納めです。
 体のつくりについてはこちらに載せています。

 コツボゴケの上をしばらく動き回っていましたが・・・

 上の写真の場所で動かなくなりました。 吸汁しているのでしょう。 口吻を差し込んでいる場所は葉の基部の中肋です。

 生態学的に見るなら、コケも緑色植物であり、地球上に有機物をもたらす生産者です。 消費者はこの有機物を見逃すはずはなく、実際にコケを食料とする生物もいろいろみつかりだしています。 このブログでも最近載せた記事ではクロミツボシアツバがありますし、上のミドリハシリダニもそうです。 しかし生産者も食べられるばかりではたまらず、何らかの防衛策を取るはずです。

 ここで話を大きく飛躍させますが、コケはなぜ小さく単純な体のつくりなのかを改めて考えてみたいと思います。 従来は最初に陸上に上がった緑色植物だからだと考えられてきました。 しかし化石で見られる最初の陸上緑色植物は、クックソニアなどの枝分かれした体を持つ前維管束植物です。
 最近になって、コケの胞子体には枝分かれを抑制する遺伝子が働いていることが分かってきたことをこちらに書きました。 つまりコケは自ら小さく単純化する進化の道筋を歩んだ植物である可能性も出てきました。 もしそのように進化したとするなら、小さく単純化するだけの何らかのメリットがあるはずですが、そのうちの1つとして、被食圧を減じる意味があるのではないでしょうか。

 上の写真の場合、ミドリハシリダニは吸汁する場所を探してウロウロしていました。 1層の細胞からなる葉からは、ミドリハシリダニのような小さな生物でも口吻が突き抜けてしまい、吸汁できないのではないでしょうか。 また、茎には口吻を差し込むことはできるでしょうが、差し込んでも維管束は無く、被害は差し込まれた周辺の細胞に限定されるように思います。 こちらではミドリハシリダニは造精器からの吸汁を狙っているようですし、吸汁可能な場所は意外と限られているのかもしれません。

 従来コケの研究は分類に主眼が置かれ、我々アマチュアも種名を知ることに熱心で、生産者と消費者の関係という視点では、あまり観察されてきませんでした。 しかしコケ植物も生態系の一員であり、このような視点を持ってフィールドで観察すれば、いろいろ楽しい発想が生まれてきます。
 例えは岩にぺったり張り付いている薄い苔類に対しては、口吻を差し込むことも齧り取ることも困難でしょう。 私はスギゴケの仲間の帽にたくさん生えている毛も、環境によっては蒴を齧られることから守るのにおおいに役立っているのではないかと思っています。 触覚に頼る生物には毛を嫌うものがたくさんいるようです。

◎ こちらでも葉が1層の細胞になるように進化した可能性を書いています。