2021-04-14

オオスミクサリゴケ

 

 ヤスデゴケを調べてもらおうと、上の写真をM氏に送ったところ、混生しているクサリゴケが気になると連絡をいただきました。 Lejeunea(クサリゴケ属)と思っていたコケですが、写真を送って見ていただいたところ、Cheirolejeunea(シゲリゴケ属)のコケで、オオスミクサリゴケかもしれないと、資料を送っていただきました。

 上がそのコケで、背片は長さが幅よりも長く、卵形です。 腹片は背片の1/3ほどの長さです。

 上は腹片で、歯が1つあります。

 上は腹葉です。 腹葉は円形で、茎の4倍ほどの幅があり、2裂しています。

 上は、M氏に送る前に私が見ていた写真で、葉身細胞には小さな油体がたくさんあると思い、Lejeunea(クサリゴケ属)としていました。 しかし、M氏に写真を送るに際し、あまりにもゴチャゴチャしすぎているので、もっと油体の少ない所を撮り直したのが下の写真です。

 上の写真を見ると、油体は大きく少数で、ブドウ房状です。 このような油体は、たしかに Cheirolejeunea(シゲリゴケ属)のものです。

 平凡社の図鑑でシゲリゴケ属の検索表をたどると、オンタケクサリゴケまたはオオスミクサリゴケになります。 検索表からするとリュウキュウシゲリゴケ Cheilolejeunea ryukyuensis の可能性も出てきますが、これは香港と琉球のみで記録されているようなので、とりあえずスルーします。
 オンタケクサリゴケとオオスミクサリゴケもよく似ていて、水谷(1980)によって主に腹片の歯と花被や雄花序に注目して整理されています(蘚苔地理雑報第8巻第7号)。 平凡社の検索表ではこの2種腹片の歯牙の違いを次のようにしています。
  オンタケ:不明瞭で卵形の1細胞
  オオスミ:明瞭で1~3細胞、楕円形で尖る
 なお、シゲリゴケ属では、第1歯牙がほとんど発達せず、歯牙は第2歯です。


 上の2枚は、採集した標本がほんのわずかしかなく、なかなか観察し易い歯牙が無かったのですが、歯牙に注目して撮り直した2カ所の腹片です。 オンタケクサリゴケではほとんど歯牙の分からない腹片もあったのですが、今回のコケはどの腹片も歯牙が確認できましたので、オオスミクサリゴケ Cheilolejeunea osumiensis としたいと思います。 いただいた資料(服部植物研究所報告No.50)の図には細長い三角形に近い大きな歯牙があるのですが、上の写真も手前の細胞に隠されて歯牙の一部しか見えていない可能性も考えられると思います。 なお、本種の分布は平凡社では福島県~屋久島となっています。

(2021.3.3. 宮崎県日南市)

0 件のコメント: