イクビゴケに囲まれた白っぽいコケ、肉眼的には葉先が丸く、見慣れているホソバオキナゴケとは違うと感じ、少し持ち帰って調べることにしました。
もう少し拡大すると、葉先は急に尖り、先端は小さな刺状になって飛び出ています(上の写真)。
平凡社の図鑑のシラガゴケ属( Leucobryum )の検索表には、ツクシシラガゴケ Leucobryum humillimum という種が載せられていて、その特徴は「葉先は急に尖り,葉先の背面の細胞は方形に近い。茎に中心束がある」と書かれています。
葉先の背面の細胞と茎の断面を調べてみました。
上は葉先を背面から撮っています。 葉の輪郭がはっきりした写真と、背面の細胞がはっきりした写真の、2枚の写真を合成しています。
上は茎の断面です。 たしかに茎の中心部の細胞は小さくなっていますが、大きさ以外の違いは、上の写真からはみつからないように思います。
こちらではアラハシラガゴケ(中心束あり)とホソバオキナゴケ(中心束なし)の茎の断面を比較していますが、ちょうどその中間のような印象です。
上は葉の断面です。 平凡社の検索表では葉の断面についてはホソバオキナゴケと同じくくりになっていますが、たしかによく似ています。
最初の写真のホソバオキナゴケとは異なるコケという前提に立って平凡社の図鑑の検索表に従えば、以上の結果から、写真のコケはツクシシラガゴケということになるでしょう。
そのつもりでこの記事をまとめるつもりでしたが、念のためにと調べてみると、山口ら(2016)のシラガゴケ科の解説記事(蘚苔類研究11(6))に行き当たりました。 それによると・・・
ツクシシラガゴケはおもに西日本の沿岸部のやや乾燥した土上に生育していますが、Oguri et al.(2006)の研究によれば、形態および遺伝学的変異の解析の結果、ツクシシラガゴケとホソバオキナゴケは種レベルでは区別できない(=同種である)ということになったようです。 葉の形態についても、種間で明瞭なギャップが見られない(=中間的なものが見られる)ということのようです。
平凡社の図鑑が発行されたのが2001年で、それ以降の研究で記載内容に訂正を要することもずいぶんと増えてきています。 上の場合も別種とされていたものが同種となった一例です。
(2021.3.3. 宮崎県日南市)
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