2022-07-05

マツタケジャゴケ

 

 日本国内で従来ジャゴケとされていたものは4種に分けられています(こちら)。 上はそのうちの1種のマツタケジャゴケ Conocephalum toyotae です。
 写真は 2022.7.3.に京都市北区雲ケ畑で採集したものですが、当日は強い雨で、撮っても表面が光るので、現地での写真はありません。 下に書くように、本種は乾燥に弱いようで、冬季に雪で覆われる所に分布します。
 ジャゴケ属は、元は1種と思われていたように、4種は互いによく似ていますが、本種のいちばん判り易い特徴は強い松茸臭です。 また肉眼レベルでの特徴を、4種の中では最も普通種であるオオジャゴケと比較すると、気室(“蛇の鱗”)のサイズが小さく、色は黒みがかった緑色で、気室孔の周辺の組織が白い斑として目立ちます。 この白い斑は・・・

 白い斑は上のように少し乾き気味の時に一層はっきりするようです。 その理由は下の気室の所で書きます。

 葉状体の縁と中央付近との気室の大きさの違いは、オオジャゴケに比較すると少ないようです。

 上は腹面から撮っています。 細長い腹鱗片が2列につき、その先につく付属物が円形であることなどはオオジャゴケとよく似ています。

 上は葉状体の断面で、写真の上が背面です。 背面は表皮に覆われていますが、ドーム状に膨れている所は気室孔、その下の緑色の濃い部分は皮質層で、その下に海綿状組織(または柔組織、髄質)が続きます。中肋部の海綿状組織を構成する細胞は翼部の細胞より小形です。
 腹面には、基物にくっつく仮根と、毛細管現象で水を全体に行き渡らせる仮根の、2種類の仮根があるのですが、断面のため前者は写真にはほとんど写っておらず、後者の束(の断面)が中肋部の下に写っています。 またその左右には1対の腹鱗片が写っています。
 以下、これらのいくつかを拡大して観察します。

 上は背面の表皮とその下の皮質層と海綿状組織上部です。 オオジャゴケなどでは表皮の細胞壁が厚くなり乾燥を防いでいると考えられますが、本種の表皮の細胞壁はとても薄いものです。 またオオジャゴケなどでは中肋部に粘液洞があり、翼部には粘液細胞が散在していて、これらも耐乾燥性を高めていると考えられますが、本種にはこれらがほとんど存在しません。 これらのことから、本種は冬季の乾燥に雪の下で耐えることしかできず、そのことが分布の重要なファクターになっているのではないかと考えられています。

 上は翼部の気室の断面です。 翼部ですので海綿状組織の高さは低くなっています。 ジャゴケ属の気室はアーチ形で、その頂に開いている孔が気室孔です。 気室はガス交換する所と考えられていますが、気体の入っている気室は光を反射し、外から見ると白く見えます。 気室の底面には同化糸が並んでいます。

 上は同化糸の拡大です。 本種の同化糸は徳利形をしています。

 上は中肋部の海綿状組織です。 細胞は厚角細胞となって強度を保っているようです。

 上は皮質層と海綿状組織との境付近です。 皮質層と海綿状組織の上部には油体があるのですが、上の写真では葉緑体に隠されて皮質層の油体は確認できません。 なお、上の写真では油体にピントを合わせていますので、細胞の形はぼやけています。

 上は最初の写真の一部ですが、赤い円で囲った所が少し膨れています。 この部分の断面を作ると・・・

 小さな雌器托ができていました(上の写真)。

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