2019-12-18

イブキタチヒダゴケ



 上の写真2枚は、2種が混生していて、左がイブキタチヒダゴケ Orthotrichum cupulatum(注1)、右がギボウシゴケ Schistidium apocarpum です。 笠井氏が7月に彦根市で採集されたコケを送っていただいたもので、1枚目は乾いた状態、2枚目は湿った状態です。
 イブキタチヒダゴケは基準産地が旧伊吹村(滋賀県)で、伊吹山が良質の石灰岩が採掘される山として知られているように、石灰岩上に生えるコケです。 また、ギボウシゴケ(ケギボウシゴケではありません)も石灰岩上に生育するコケで、両者が混生するのも納得ですが、乾湿いずれの状態でもとてもよく似ていて、上の写真のように拡大すれば見分けがつきますが、育っている姿だけを見て混生していることに気づくのは、肉眼的には難しそうです。

 以下はイブキタチヒダゴケについてです。


 上は乾いた状態で、葉は茎に接しています。 葉の長さは3mm前後です。


 葉はタチヒダゴケなどに比べると、かなり強く反曲しています。 中肋は葉先近くに達しています。


 上は葉身細胞です。 各細胞にはふつう2個のパピラがあります。


 上は中肋の様子です。


 葉の基部の細胞は方形~矩形で、パピラはほとんど見られません。


 蒴柄は短く、蒴はやっと苞葉の上に出る程度です。 上は乾いている状態で、蒴壁の皺は深くなっています。
 蒴は古くなっていて蒴歯の様子はよく分かりませんが、外蒴歯16本は対を形成して8対になっているはずで、内蒴歯の歯突起は長いはずです。 上の写真をどう理解するかですが、外蒴歯は一部残っていますが、内蒴歯は失われているのではないでしょうか。 外蒴歯も、黄色の矢印は8対であった様子を残していますが、基部しか残っていない水色の矢印では、対になっていた蒴歯が分かれてしまっているようです。


 上の写真では外蒴歯が対を解消し、16本になっているようです。 なお、混生しているギボウシゴケの葉が目立ちますが、ギボウシゴケの蒴はほぼ完全に雌苞葉に覆われますので、写真の蒴はイブキタチヒダゴケのものです。


 上は蒴壁を表面から(=外側から)撮って気孔を見ています。 気孔に胞子が入り込んでいますが、気孔は沈生です。


 上は胞子で、表面は多くのパピラで覆われています。

(注1)
 平凡社の図鑑などでは、イブキタチヒダゴケの学名は O. ibukiense となっていますが、この学名は現在は O. cupulatum のシノニムとされています。

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