2024-09-16

コアミメヒシャクゴケ(コヒシャクゴケ)

 写真のコケ、平凡社の検索表や尼川の図からはコヒシャクゴケになると思うのですが、現在コヒシャクゴケはコアミメヒシャクゴケ Scapania parvitexta と同種として扱われています。

 1枚目の写真ではほとんど緑一色のようですが、群落の断面で見ると、あちこち赤みを帯びています。 茎の長さは1cm前後、葉を含めた茎の幅は1.5~2㎜です。


 上の2枚は葉です。 背片と腹片の大きさの差はあまりありません。 腹片は円頭です。 葉縁には小さな歯が並んでいます。

 上は葉身細胞です。 歯は1~3個の細胞からなっています。

 上は花被です。

 上は花被の口です。

(2024.8.25. 北海道 然別湖に沿った道 標高約800m)

◎ コアミメヒシャクゴケ(コヒシャクゴケ)はこちらこちらにも載せています。

2024-09-15

タカネハネゴケ

 写真はタカネハネゴケ Plagiochila semidecurrens のようです。 朽木の上で育っていました。 上の写真のように葉が垂れ下がるのが本種の特徴の1つだと聞きました。

 葉は背片が強く外曲しています。

 葉縁に歯がありますが、背縁の歯は小さく少数です。

 葉の基部にはビッタ状の細長い細胞があります(上の写真)。


 上は葉身細胞です。 大きなトリゴンがあります。

 上は茎の横断面です。 ハネゴケ属の茎は皮層細胞が厚壁で、髄細胞とは明瞭に異なります。

(2024.9.7. 北八ヶ岳)

◎ タカネハネゴケはこちらにも載せていますが、枝分かれの様子などが異なります。 生育環境によるものでしょうか。

2024-09-14

アオギボウシゴケ

 写真はアオギボウシゴケ Grimmia subsulcata でしょう。 岩上で育っていました。 北海道~九州の高山に分布するコケで、写真は北海道・鹿追町の標高900m付近で撮りました。 シモフリゴケにも似ていますが、ずっと小形です。
 上は乾いた状態で、葉は茎に密着していますが、湿ると下のように開きます。

 植物体は暗緑色で、上部の葉の先端には長い透明尖があります。

 茎の長さは約1cmです(上の写真)。

 葉は強く折れ畳まれ、葉の上部は溝状になっています。

 上は葉身部のほぼ中央の葉縁付近です。 葉縁は平坦~やや内曲し、葉身細胞は方形~長方形で、長さは8~10μmです。

 葉の基部の細胞は長方形で、無色の細胞も多く見られます。

 上は葉先近くの(厚く切りすぎた切片と薄く切りすぎた)切片です。 葉縁は2細胞層になっています。

 上は葉のほぼ中央の横断面です。 中肋は背方に大きく張り出しています。 葉身細胞は所々2層になっています。

2024-09-13

クロベ -アスナロとの気孔帯の比較を中心に―

 上はヒノキ科のクロベ Thuja standishii (別名ネズコ)です。 木曽五木の1つで、日本固有種であり、本州と四国の山地帯から亜高山帯にかけて分布します。 高さ35mにも達する高木で、材は建築用などに利用されるのですが、岩上や風衝地に生育するものは匍匐状の樹形になります。 上の写真も、背景に岩が写っていますが、北八ヶ岳のガレ場で撮ったもので、岩上を匍匐していました。
 ところで、ヒノキ科の多くの種では枝の下面の葉に気孔帯(または気孔条)と呼ばれる白い模様が見られます。 この模様はそれぞれの種ごとに形が違い、サワラは「Ⅹ」(または「Ⅴ」)という文字に、ヒノキは「Y」に、アスナロは「W」に似ており、種を見分ける時に役立ちます。 ところがクロベでは、少なくとも肉眼レベルでは気孔帯が無く、そのことがクロベの特徴の1つになっています。
 今回は、大きくくっきりとした気孔帯を持つアスナロと気孔帯の目立たないクロベとで、気孔の分布や様子に違いがあるのか、調べてみました。
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 上はアスナロの枝の下面(白い気孔帯がはっきりしている)と上面を重ねて撮っています。 この気孔帯と呼ばれる部分にほんとうに気孔が集まっているのか、拡大してみたのが下の写真です。

 上の写真程度に拡大すると、気孔帯に小さな点が見えてきます。 下は上の赤い四角で囲った所をさらに拡大した写真です。

 上の写真のように拡大すると、小さなドーナツのようなものがたくさん見えます。 この“ドーナツの中央の穴”が気孔だと思いました。

 次にクロベです。 上に書いたように、少なくとも肉眼レベルでは気孔帯の存在は分からず、枝の上面と下面を見比べても、下面の方が少し緑が薄い程度の違いしかありません。 ところが・・・

 上はクロベの枝の下面をフラッシュを使って撮影し、コントラストを少し強調した写真です。 上の写真を見ると、境ははっきりしないものの、クロベにも気孔帯らしいものがあるのが分かります。 この少し白っぽい所を拡大したのが下の写真です。

 上はアスナロの3枚目の写真と同じ拡大率です。 やはり“ドーナツ”のたくさん集まっている所があります。 しかし“ドーナツ”もアスナロほどは白くなく、ドーナツ間の組織は緑色です。
 調べてみると、白くみえるのはワックスがあるためのようです。 ワックスは水をはじきますが、気孔帯のワックスの多少が生育環境とどのように関係するのか、興味あるところです。

 以上、“ドーナツ”(の中央の穴)が気孔ではないかとして書いてきましたが、ほんとうにそうなのか、顕微鏡でもう少し詳しく観察してみました。
 クロベの葉の表面を安全カミソリの刃で薄く剥ぎ取り、顕微鏡観察したのが下の写真です。

 たくさんの孔が開いています。 よく見る被子植物の気孔とはずいぶん様子が異なり、この孔そのものが気孔かは疑問が残りますが、少なくとも気孔に関係する孔であることには間違いないでしょう。
 気孔と断言する自信が無いのは、葉緑体を持った孔辺細胞が見当たらず、どのように開閉調節を行っているのかが不明なためです。 もしかしたらこの孔の奥にほんとうの気孔があるのかもしれないと思い、縦断面も作成してみましたが、安全カミソリではうまく切れず、確認できませんでした。 それに周囲にたくさんあるさらに小形のドーナツに似た構造も気になります。
 ヒノキ科の気孔については文献を調べてもみあたらず、なぜ気孔が葉の光の当たらない側に散らばらず気孔帯に集中するのかなど、いろいろ疑問も残りますが、とりあえずここまでにしておきます。

 参考までに、下は白っぽくない所の葉の表面で、上と同じ倍率です。 葉の表皮細胞は透明で、その下に葉緑体を持った細胞が透けて見えます。


2024-09-12

オオヒモゴケ

 写真はオオヒモゴケ Aulacomnium palustre でしょう。 北八ヶ岳の湿地に育っていました(2024.9.12.撮影)。

 地際から覗き込むように撮ると、茎の頂端などから無性芽をつける軸上の短枝が出ています(上の写真)。

 上の写真の赤い矢印の所では無性芽ができかけています。 黄色い矢印の所は無性芽が落ちた跡でしょうか。

 茎は褐色の仮根に覆われています。 葉の長さは 2.5~3.5㎜です。

 葉は披針形です(上の写真)。

 葉の先端は鋭頭です。 葉の上部の縁にはパピラによる不規則な突起があります。 中肋は葉先に届いていません(上の写真)。

 葉の基部には色の濃い少し大きな細胞があります(上の写真)。 中部以下の葉縁は狭く背方に巻いています。

 葉身細胞は長さ10~15μm、非常に厚角で、中央に1個のパピラがあります(上の写真)。

◎ オオヒモゴケはこちらにも載せています。

2024-09-11

タチゴケモドキ

 


 写真はタチゴケモドキ Oligotrichum parallelum です。 北八ヶ岳の標高 2,100m付近の腐植土に覆われた岩上で育っていました(2024.9.7.撮影)。
 本種は雌雄異株です。 上は雄株のようで、雄花盤が写っています。

 上の写真の上は乾いた状態、下は湿った状態です。 乾くと強く捲縮します。 上の写真の背景は1㎜方眼ですので、茎の長さは約2.5cm、平凡社では2~6cmとなっていますから、少し小形のようです。

 上は葉で、中肋が波打っているようにみえたり、葉身部に線状の色の濃い部分があるのは、薄板があるからです。

 上は葉先付近です。 葉縁には舷が無く、複数の細胞からなる歯があります。

 上は葉の横断面です。 ナミガタタチゴケなどのタチゴケ属(Atrichum)とは異なり、タチゴケモドキ属(Oligotrichum)では中肋の背腹両面に薄板があります。
 腹面の中肋上の薄板は高さ3~6細胞で、上の写真では5列、平凡社では4~6列です。 背面の中肋上の薄板は高さ2~3細胞です。 上の写真では背面の葉身部にも1~3細胞の高さの薄板が見られました。

 上は中肋の横断面です。

 上は葉のほぼ中央の葉身細胞です。

2024-09-10

ヒメトロイブゴケ

 上はヒメトロイブゴケ Apotreubia nana です。 亜高山帯の林床で、いろいろな蘚苔類に混じって育っていました。 肉眼的には緑の濃いムチゴケのような印象でした。 なお、同行の数名は湿岩上に育つ本種を確認しています。
 COLE T.H.ら(2023)の「コケ植物系統樹ポスター」によれば、本種の分類されているトロイブゴケ科(Treuviaceae)は、コマチゴケ科とともに、他の苔類と最も早く分かれた祖先的な苔類とされています。

 本種の配偶体は、上の写真のように、葉状体と茎葉体の中間的な形態をしていますが、ここでは平凡社の記載に倣い、葉状体の縁が深く切れ込んで半円形の葉のようになっているとしておきます。 葉状体の幅は、上の写真で約6㎜、平凡社によれば4~8㎜となっています。
 葉状体の全体に散らばって白い点のようにみえるのは油体細胞でしょう。 葉状体の背面には舌状の背片が2列に並んでいます。

 葉状体は二又状に分枝します。 上の写真では、ちょうど二又状に分枝し始めています。
 葉状体の中肋部の背面に小さな球形のものが散在していますが、これは造精器ではないかと思います。 平凡社によると、造精器は、雄包膜などを伴わず、裸出しているとのことです。 本種は雌雄同株とされていて、造卵器も雌包膜や偽花被は無く、中肋部の背面に裸出し、多肉質のカリプトラが発達するとのことです。 なお、胞子体については、片桐ら(2009:下の参考文献)をご覧ください。

 上は葉状体の横断面です。 中肋部の中央に中心束が1つあります。 油体細胞は葉状体内部に散在しています。 仮根は透明です。

 上は葉状体の横断面の背面近くです。 油体細胞内には、細胞の2/3~3/4大の油体が1個あります。

(2024.9.7. 北八ヶ岳)

【参考文献】
片桐知之・桝崎浩亮・嶋村正樹:南アルプス甲斐駒ケ岳におけるヒメトロイブゴケ(Apotreubia nana)の胞子体の発見.蘚苔類研究9(11),2009.