2024-12-31

蒴をつけたコハネゴケ

 


 コハネゴケ Plagiochila sciophila が蒴をつけていました(上の写真)。

 多くの花被は蒴柄に巻き付いて形が不明ですが、上の花被は形がよくわかります。 花被は扇形で、口部は広く、長い披針形の鋸歯があります。 これが苞葉ではなく花被であることを示すため、下に顕微鏡写真も載せておきます。

 上は花被近くの葉を取り去って撮影しています。

 上は弾糸です。

 上は胞子です。

(2024.12.11. 京都市 貴船)

こちらではコハネゴケの配偶体について、こちらでは主に造精器について書いています。

2024-12-28

ミヤコノツチゴケ

 上の写真は農道脇のコケ群落で、細長い若い胞子体をつけているのはツチノウエノコゴケ、写真右下の赤っぽい蒴が見え隠れしているのはトジクチゴケだと思いますが、それらより小形で緑が濃いコケはミヤコノツチゴケ Archidium ohioense だと思います。 以下はこのミヤコノツチゴケについての観察記録です。

 1枚目の写真では一見蒴をつけていないようにみえますが、たくさん蒴をつけていました。 ただし胞子体は群落の表面には出てこず、群落の中ほどに位置する短枝の先で苞葉の中にうずもれています。 上の写真の場合は黄色の矢印の膨らみの中に胞子体がありました。
 上は胞子体のある所を取り出したもので、茎の長さは3㎜ほどしかありませんが、多くは茎の長さが6~7㎜で、分枝していることも多くありました。

 上は苞葉を取り除いた蒴です。 蒴柄はほとんどありません。 蒴は球状で径 0.3~0.5㎜、蓋も蒴歯も分化せず、蒴壁は1層の細胞からなり薄く、中の胞子が透けて見えます。 胞子は大形で、径は130~170μmもあります。 ちなみに、この胞子の大きさは、蘚類の中で最も大きいようです。

 葉は長さ 0.5~0.9㎜、中肋は葉先に達し、ほぼ全縁です(上の写真)。

 上は葉身細胞です。 左中央から右上に走っているのは中肋です。

(2024.12.17. 兵庫県三田市)

2024-12-24

ホウライサワゴケ

 写真はホウライサワゴケ Philonotis hastata でしょう。 葉腋に肉芽状の無性芽をたくさんつけていたのですが、湿らせようとスプレーで水をかけると、大部分の無性芽は吹き飛んでしまいました(-_-;
 他のサワゴケの仲間同様水をよくはじき、水滴があちこちについています。

 育っていたのは用水路の壁面です(上の写真)。 撮っていた時は気づかなかったのですが、水面に浮かんでいるのは無性芽のようです。 ちょうど無性芽がポロポロと落ちる時期だったようです(2024.12.17. 兵庫県三田市)。
 平凡社によると、国内の分布は本州~九州で、「渓谷沿いの土上や石灰岩の洞窟の中に生えるが稀。」となっています。 なお、蒴は日本では未知のようです。

 古い茎から新しい茎が伸びています。 茎の基部には褐色の仮根があります(上の写真)。

 上は茎(の上部)と無性芽です。(葉腋についている無性芽を撮るつもりが、無性芽が落ちてしまいました。) 上部の葉の長さは、長いもので約1㎜です。

 上は無性芽です。

 上は中部の葉(上)と株の葉(下)です。 葉を茎からはずす時、柔らかい葉だと思いました。 葉形は全体的に丸みを帯びていますし、 コツクシサワゴケ、オオサワゴケ、カマサワゴケなど大阪付近の低地で見るサワゴケの仲間の葉先はどれも細く尖るか鋭頭ですが、本種の葉先は鈍頭です。

 上は中央部の葉の葉先付近で、中肋は葉先から数細胞下で終わっています。

 上は葉の中央付近の背面です。 葉縁はほぼ全周に微歯が並んでいます。 葉身細胞にはサワゴケの仲間には珍しくパピラが無いようですが・・・

 葉身細胞腹面の上端にはパピラがあります(上の写真)。 ただしこのパピラ、平凡社には「明瞭な」とあるのですが、葉緑体と紛らわしく、上の写真のように葉緑体の少ない細胞でないと見逃してしまいそうです。 また、全ての細胞にあるわけではないように思います。

 中肋背面の細胞にも、上端に突起のある細胞が見られます(上の写真)。

2024-12-21

マキバハナゴケ

 

 写真はマキバハナゴケ Cladonia polycarpoides だと思います。 鱗は表面が灰緑色、裏面が白色で、湿った状態では表面しか見えないのですが、乾くと上の写真のように巻き上がって白い裏面がとてもよく目立ちます。 和名は「巻き葉」で、この様子に由来しているのでしょう。
 写真の中央やや右上に子柄・子器が写っています。 本種が子柄・子器をつけるのは珍しいことです。

(2024.12.17. 兵庫県三田市)

2024-12-19

キシュウツボゴケ

 農道の傍らで撮った上の写真、いろいろなコケが混じっていますが、橙色の蒴が見え隠れしているのはキシュウツボゴケ Weissia kiiensis でしょう。 蒴は雌苞葉に覆われていますが、よく見ると、若い蒴には僧帽形の小さな帽がついています。
 本種の種名は平凡社には載っていませんが、これまでツチノウエノタマゴケとされていたコケです(*1)。

 乾いた状態では巻いている葉は、湿らせるとすぐに上のように開きます。

 枝分かれする茎もあり、蒴はその茎に頂生します。 雌苞葉は葉よりずっと長くなっています。

 雌苞葉や上部の葉を取り去りました(上の写真)。 蒴は球形で、壺と蓋の分化は見られず、径は上の写真で約 0.6㎜、頂には嘴状の突起があります。 蒴柄は短く、約 0.2㎜です。

 上は蒴の頂の嘴状の突起です。

 上は葉です。 基部は透明な細胞で構成されています。 中肋は葉先から突出しています。 下は上の葉の葉先です。

 上部の葉縁は内側に巻いています(上の写真)。

 葉身細胞は方形~六角形で、各細胞には数個のパピラがあります。 葉縁の細胞は矩形です(上の写真)。

 上は雌苞葉です。 かなりの長さで葉縁が内側に折れています。

 胞子の表面は小さなパピラに覆われています(上の写真)。

(2024.12.17. 兵庫県三田市)

*1 井上侑哉,坪田博美:日本産ツチノウエノタマゴケWeissia longifolia Mitt.の実体. 日本植物分類学会大会研究発表要旨集. 2016年03月.

【参考にした文献】
YUYA INOUE & HIROMI TSUBOTA (2017): A taxonomic revision of cleistocarpous species of Weissia (Pottiaceae, Bryophyta)in Japan. Phytotaxa 306 (1)

2024-12-13

ツクシホウオウゴケ

 

 湿った所にある転石上にツクシホウオウゴケ Fissidens bryoides var. lateralis が育っていました。

 葉を含めた茎の長さは、上の写真で約5㎜、平凡社では3~12㎜となっています。 また、茎の上部の葉の長さは、上の写真で約2㎜、平凡社では 1.4~2.4㎜となっています。
 上の写真で、楕円で囲ったAは側生する雌花序で、この花序につく小さな葉が少し見えています。 よく見ると、このような小さな葉はBの楕円の中にも見られます。 観察した結果は、Bは雄花序でした。

 Aの雌花序を取り出してみました(上の写真)。 雌の花序には普通葉よりずっと小さな葉がついています。
 蒴はほぼ相称です。 蒴柄は上の写真で約2.5㎜、平凡社では0.8~2.5㎜となっていますから、本種としてはこれで大きな胞子体ということになるのでしょう。

 Bの雄花序も取り出してみました(上の写真)。 下は上の赤い四角で囲った部分の拡大です。

 精子を正し終えて空になった造精器がたくさんあります。

 上は普通葉の葉先付近で、葉先は鋭頭です。 舷は全周にあり、中肋は葉先に達し、舷と合流しています。

 上は背翼の細胞です。

(2024.12.11. 京都市 貴船)

こちらには上より茎が長く伸びたツクシホウオウゴケを載せています。 また、上とほぼ同じ場所で7年前に撮った様子をこちらに載せておきます。

2024-12-12

カギヤスデゴケ

 ガードレールに張り付いたカギヤスデゴケ Frullania hamatiloba が花被をつけていました(上の写真)。 植物体に光沢はありません。


 上の2枚は、1枚目が背面から、2枚目が腹面から撮った写真です。 本種の花被は3稜で、表面にいぼ状の突起があります。

 上は腹面から撮っています。 腹片はヘルメット状で嘴があります。 腹片は大きく、幅は背片の1/4~1/2です。

 腹片の先は嘴状になっています(上の写真)。

 腹葉は幅が茎径の2~3倍で、先端は深く切れ込み、側縁はほぼ全縁です(上の写真)。

 上は背片です。 背縁基部は耳状突起となっています。

 上は背片の細胞で、細胞壁はやや波状に肥厚しています。

(2024.11.22. 京都市 貴船)

◎ カギヤスデゴケはこちらこちらにも載せています。

2024-12-06

ネジレゴケモドキ

 写真はネジレゴケモドキ Tortella tortuosa でしょう。 大きな石灰岩についていました。 湿った状態では、上の写真のようにやや偏向して葉を広げていますが・・・

 葉は乾くと上のように縮みます。

 葉は披針形~線状披針形で、長さ3~6㎜、湿った状態を横から見ると葉がやや偏向して開いているのがよく分かります。 上の茎の長さは、上部しか写っていませんが、2.7cmありました。 平凡社では3cm以下となっています。

 葉基部の細胞は長い矩形で平滑、透明です。 この透明な細胞群は葉縁に沿ってせり上がっています(上の写真)。

 上は写真上段は葉先付近を、下段は葉先より少し下がった所を横から見ています。 中肋は多少突出し、先はほぼ平滑です。 葉身細胞は方形~丸みのある方形で、たくさんのパピラがあります。

 上は葉の中央付近の葉身細胞です。 細胞の長さは8~11μmですが、多くのパピラで細胞の輪郭ははっきりしません。

 上は葉の横断面です。 中肋を見ると、ガイドセルの背腹両側にステライドがあります。 葉身細胞は1層で、背腹両面にパピラがあります。 中肋のパピラは腹面にはありますが、背面にはありません。

 上は茎の横断面です。 中心束はありません。

(2024.11.4. 滋賀県多賀町)

こちらこちらでは本種の蒴の様子なども載せています。