2015-04-28

イヌノフグリ



 写真は、明治初年に日本に帰化し急速に広まったオオイヌノフグリではなく、古くから日本にあったイヌノフグリです。 こんなふうに書くのは、「イヌノフグリ」と書いてオオイヌノフグリの写真を載せているブログなどが散見されるからです。 それほど“本物”のイヌノフグリはマイナーな存在になってしまいました。
 上の写真の場所では比較的たくさん生えていましたが、このような場所は稀になってしまいました。 他の植物に追いやられたイヌノフグリの落ち延びた先は・・・


 上は吹き溜まりになっていて、たくさんの落ち葉がありますが、イヌノフグリの生えているのは人工的に組まれた石と舗装とのわずかな隙間です。 下も階段のほんのわずかな隙間に生えています。 花が少ないのは花の盛りの時期が過ぎているからです。


 上の写真のように、イヌノフグリはほとんど立ち上がらず、地表を這います。 また、イヌノフグリは小さな植物です。 花もタチイヌノフグリの花(下の写真の左)より少し大きい程度です。

タチイヌノフグリ(左)とイヌノフグリ(右)

 地面を這う小さなイヌノフグリは、多くの植物が元気に育つような場所では、上を覆われ、光合成が十分できなくなり、弱ってしまいます。
 以前は定期的に草刈りされた畑の畦などにもよく見られたようですが、そのような場所では近縁で似た生活をして大型で逞しいオオイヌノフグリとの生存競争に負けてしまうようです。
 しかし3枚目や4枚目の写真のような僅かな隙間しか無い場所では、他の植物の種子が入り込む確率は低く、ここにイヌノフグリの種子がうまく入り込めば、他の植物に上を覆われる心配なく育つことができます。 しかしそのような場所にイヌノフグリの種子が入り込む確率は高いのでしょうか?


 上はイヌノフグリの果実です。 上の写真のものは左右の球形の大きさが少し異なりますが、オオイヌノフグリの果実よりは、ずっと陰嚢に近い形でしょう。 2つの球形がくっついたような形だからといって、それぞれに1つずつの種子が入っているわけではありません。


 上は果実が熟して割れたところです。 多くの種子はこぼれ落ちてしまっていますが、右側にはまだ少し種子が残っています。


 上は種子です。 イヌノフグリの種子には大きな窪みがあり、その窪みの中にエライオソームと呼ばれる蟻が好む物質(上の写真の白いクシャクシャのもの)が付いています。 この種子を蟻が見つけると、蟻はエライオソームを(=種子を)巣に持ち帰ろうと運びます。 つまり小さな隙間に蟻が種子を運び入れてくれる可能性もあるわけです。 ただし、オオイヌノフグリの種子も、イヌノフグリと似た種子で、エライオソームを持っています。
 イヌノフグリが生活できる隙間があっても、そこにイヌノフグリが生えるわけではありません。 イヌノフグリの種子は風で遠くに飛んで行けるような種子ではありませんから、近くに種子供給源となるイヌノフグリがなければなりません。 また蟻の協力を得るには、蟻が生活できる環境でなくてはなりません。 さらに、石などの隙間に種子が入り込む競争相手もいます。 特に、イヌノフグリの仲間で、これも明治初期に帰化してイヌノフグリとよく似た生活をするフラサバソウは、種子も大きく、蟻の種類(大きさ)にもよるでしょうが、蟻はフラサバソウの種子をより好んで運ぼうとするようです。
 イヌノフグリの生活は、草地ではオオイヌノフグリに負け、石垣の隙間などではフラサバソウに負けるという苦しい状況にあるようです。 イヌノフグリは1年生草本ですから、毎年どこかで生活の場所を確保し子孫が存続し続けることができなければ、その地域からイヌノフグリの姿が消えてしまいます。