2018-08-02

クスノキの葉のダニ

Part1 2013.8.23.からの引っ越し記事です。(一部加筆しています。)
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 上はクスノキ Cinnamomum camphora の葉です。 クスノキの葉の特徴としては、全体的な葉形に加えて、多くのクスノキ科の葉同様、葉身の基部付近の主脈から左右に太い側脈が出ている(これを「三行脈」と呼んでいます)ことと、特有のにおいがあることでしょう。
 クスノキからは、防虫剤などに使われる樟脳(しょうのう)が得られます。 ですからクスノキの葉には虫がつかないかというと、そうでもなく、いろんな虫が葉に害を与えます。 上の写真の中央から右に出ている葉でも、黒い点や白い小さな点がたくさん見られますし、アオスジアゲハの幼虫をはじめ、クスノキの葉を食害する比較的大きな昆虫もいろいろいます。 また、2015年以降、クスベニヒラタカスミカメがクスノキの葉に大きなダメージを与えています。

 少しミクロの話になりますが、クスノキの葉を他のクスノキ科の葉と見分けるポイントとして、クスノキの葉の三行脈の分岐点には、小さな膨らみが見られます。


 上がその膨らみです。 大きさは季節によって少し異なり、春の若葉では小さく秋から冬には大きいように思います。 この膨らみを切ると、膨らみの中にはダニがいます。 ただしこのダニは、ルーペで確認できても、私の今のカメラシステムでは満足に撮れないので、写真はありません。
 以後、この膨らみは「ダニ室」と呼ぶことにします。 下はこのダニ室を葉の裏から撮ったもので、毛の生えた出入り口が開いています。


 このダニ室はクスノキ自ら作るようで、芽生えて間もないクスノキの若い葉では、ダニのいない小さなダニ室を見ることもあります。
 たくさんの葉のダニ室を調べると、たくさんの種類のダニが見られるのですが、最もよく見られるのは、フシダニの仲間です。
 フシダニの仲間の多くはフシ(=虫えい=虫こぶ)を作り、全てのフシダニは植物寄生性です。 クスノキはなぜ自らに害を与えるダニのためにダニ室を準備してやるのでしょうか。
 次のような内容の論文(笠井敦 2006)があります。 ダニ室で見られるフシダニは比較的おとなしいフシダニで、クスノキに大きな害を与えませんが、クスノキの葉に大きな害を与えるフシダニもいます。 クスノキの葉にはコウズケカブリダニなどの肉食性のカブリダニもいます。 クスノキの葉の敵(フシダニ)の敵(カブリダニ)は味方ですから、クスノキはカブリダニにパトロールし続けてほしいわけです。 ダニ室で比較的おとなしいフシダニが増えると、ダニ室からフシダニが溢れ出て、カブリダニの餌となり、カブリダニを引き留めておくことができます。(論文の内容は平たく書いています。)
 先日(2013.8.16.)、この説が納得できるようなできごとを観察することができました。


 上の写真で、ダニ室の傍に写っているのは、カブリダニです。 コウズケカブリダニかもしれません。 見ていると、かなりのスピードで葉のあちこちを歩き回り、餌は無いかとでもいうふうに、ダニ室を確かめに来たところのように見えました。 このダニの大きさでは、大きすぎてダニ室に入ることはできません。 以前ビノキュラーで観察したことを思い出すと、フシダニはもっと小さく、細長く、短い脚で、進む速度はゆっくりでした。


 大きなクスノキの葉では、三行脈の分岐点に加えて、他の側脈の分岐点にもダニ室が作られていることもあります(上の写真)。 ここでも、速足で歩いてきたカブリダニが、ダニ室の前で立ち止まっていました。

 クスノキの葉のダニ室の役割については、他の説もあります。 名古屋大学の西田佐知子氏は、ダニ室の出入り口は秋には小さくなることから、ダニ室はダニを誘いこみ、閉じ込め、春の落葉とともにダニを排除するしくみだと考えられています(詳しくはこちら)。
 はたしてクスノキの葉のダニ室は、クスノキにどんなメリットをもたらしているのでしょうか。




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