上は湿らせて撮影していますが、観察結果から平凡社の検索表をたどると、イボタチヒダゴケ Orthotrichum iwatsukii になりました。 ただ、タチヒダゴケ属(Orthotrichum)は、平凡社では8種ですが、鈴木(2014)が日本産は29種とし(Hattoria 5)、その後も再検討されているようですので、現状はよく分かりません。 上の学名も平凡社とは変わっています。
上の2枚は樹幹に生育していた状況です。 地衣類があちこちについていて、かなり乾燥した状態でした。
葉は披針形で、中央付近で軽く反っているため、プレパラートにすると上のような姿になってしまいます。 葉の中央部の葉縁は強く反曲しています。 葉の基部の細胞は矩形で透明です。
葉先は徐々に細くなっています。 中肋は葉先に達していません。
上は葉身細胞です。 各細胞には2(~3)個のパピラがあります。
上は細胞を斜め上から見ていますが、かなり背の高いパピラです。 平凡社は検索表にあるだけで、他を調べてみてもよく分からないのですが、この背の高いパピラが和名の「イボ」なのかもしれません。
タチヒダゴケ属の同定は、蒴が無いとかなり困難になりますが、この属の胞子体の観察に適した時期は春の終わりから夏の初めです。 採集してきた標本を見ても、殆どが古い蒴でしたが、1つだけまだ胞子を持った蒴がみつかりました。 それが上の写真で、蒴は苞葉の上に出ています。 奥には毛のついた帽も見えます。
下はこの胞子体の手前の葉を取り除いて撮った写真です。
タチヒダゴケ属としては長い蒴柄です。 下はこの蒴を縦断したうちの片方です。
上は、蒴柄はついていませんが、蒴歯から頸部まで写っています。 本属の外蒴歯は16本ですが、そのうちの対になった6本が右上に写っています。 あちこちに胞子が散らばっています。
下は赤い四角で囲った部分の拡大で、赤い円で囲った所に気孔があります。 本属の蒴の気孔には沈生のもの(例えばこちら)と表生のものがあり、本種の場合は明らかに表生です。 また、気孔は頸部にあるのではなく、蒴の中部から下部にかけてあちこちに見られます。
(2021.10.6. 長野県 蓼科)
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