上は長野県の横谷渓谷での観察の様子ですが(2022.9.5.撮影)、この岩にはキスジキヌイトゴケやアオギヌゴケ属など、いろいろなコケが混じって育っていました。 以下に書くオオクラマゴケモドキ Porella grandiloba も、そのうちの一種です。
葉は古くなるにしたがって褐色を帯びてきます。 茎は不規則に分枝しています。 赤い円で囲った所に胞子体があります。
上は少し乾いて巻きかけてきていますが、背片は長さ1~1.5mmで全縁、円頭です。 上の写真にも中央に胞子体を包んでいる花被が写っていますが、まずはオオクラマゴケモドキであることを確認しておきます。
上の写真で腹片も全縁であることが確認できます。 腹葉にはピントが合っていませんが、腹葉も全縁であることは確認しています。 背片の腹縁はわずかに内曲しているために色濃く写っています。
◎ こちらには深度合成で腹葉の様子もよく分かる写真を載せています。
ここまで確認してオオクラマゴケモドキだと思いましたが、シゲリクラマゴケモドキも時には背片も腹片も腹葉も全縁になることがあります。 検索表で確認することにしました。
平凡社の図鑑の検索表で、オオクラマゴケモドキの所から検索表の最初に遡り、確認しながら検索表をたどろうとしました。
平凡社の図鑑の検索表は葉のキールの有無から始まります。 葉にキールがあり、腹片の腹縁基部がほとんど下延せず、背片・腹片・腹葉が全縁でオオクラマゴケモドキに至ります。
キールをきちんと確認するために葉を外しました。
?? 茎の組織の一部までついている形で完全に葉を取り出したはずなのにキールがありません。 拡大して見ても・・・
拡大し、ピントを上下にずらして立体的な位置関係を調べても、キールは確認できません。
先入観を捨て、検索表でキールが無い場合をたどりなおすことにしました。 すると、なんと、キールが無い所にも、オオクラマゴケモドキがあるではありませんか! 本種の種別の解説にも「キールはほとんどないか,腹片の幅と同長となる。」と書かれていました。
ヤレヤレです。
上は葉身細胞です。
以下、胞子体について
上の写真は腹面を斜め上から撮っています。 花被に包まれた胞子体をつけた短枝は腹面から斜めに突き出しています。 この胞子体を守るように、周囲の背片も寄ってきています。
下はこの短枝を切り離し、花被を破って胞子体が見えるようにした写真です。
若い蒴柄には、生長しなかった造卵器らしきものがついています。
◎ こちらには、このような胞子体の基になった造卵器段階の様子を載せています。
下は別の枝を横から見ています。 乾いた状態で背片は内曲していますが、枝から垂れ下がるようにたくさんの花被が見えます。
上の写真の④の花被の中を調べると、若い胞子体が確認できました。 ところが①~③の花被は①とは様子が異なっていて、中にある褐色のものが少し見えています。 このような枝は他にもあり、ちょうど2つ並んだ花被があったので、そのうちの1つの中を見たのが下です。
花被の中にあった褐色のものは開裂した蒴の裂片のようです。 ということは、この仲間の蒴柄はほとんど伸びず、蒴は花被から少し顔を出すだけで開裂するものと思われます。
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