2025-10-30

サケバムチゴケ

 写真はサケバムチゴケ Bazzania tricrenata でしょう。 昨日に続いて“苔ミタロ”でいただいたコケで、SJさんが剣山の標高1900m付近で2024年7月に採集されたものです。 北半球の冷温帯に分布するコケで、葉は接在し、先端が内曲しています。

 上は湿らせた状態で腹面から撮っています。 湿った状態でも葉は内曲しています。 腹葉は開出し、茎径の約2倍幅です。

 葉は長さ1~1.5㎜で、先端に2~3歯があります(上の写真)。 ところで、和名の「サケバ」は何なんでしょうね。 「裂け葉」だとすれば、この葉先の様子しか無いと思うのですが、他のムチゴケの仲間と比較しても、深く裂けているとは言えないと思います。


 上の2枚は腹葉です。 腹葉は円状方形で、先端は深波~鋸歯状です。

 上は葉身細胞です。 三角形のトリゴンが多く見られます。 油体は米粒形で大きな眼点があるはずですが、1年以上前に採集された標本ですので、消えてしまっています。

2025-10-29

オンタケヤスデゴケ

 写真はオンタケヤスデゴケ Frullania schensiana のようです。 剣山の標高1750m付近で2024年7月に採集されたもので、10月28日の顕微鏡観察会(注1)でSJさんが持って来られたものを少し分けていただきました。 写真は採集されてから1年以上経っていて少し変色していますが、本来の色は黄褐色~赤褐色のようです。
 写真のコケは、平凡社に従えばホシオンタケヤスデゴケ F. schensiana var. punctata となるのですが、現在ではオンタケヤスデゴケの異名とされています(片桐・古木:2018、古木2020)。

(注1) 岡山コケの会関西支部(略称 オカモス関西)では、原則毎月第4火曜日に大阪市立自然史博物館の1室をお借りし、顕微鏡を使った蘚苔類の観察会(愛称 苔ミタロ)を実施しています。 どなたでも参加できます。


 背片は卵形で全縁、円頭、腹片は帽状で、嘴の先は丸くなり、内曲しています。 腹葉は卵形で離在し、茎の約3倍幅、全縁で、浅く2裂しています。

 上は葉を1枚外して腹葉と腹片を拡大しています。 腹葉や下の背片には眼点細胞らしいものが写っています。 上で平凡社に従えばホシオンタケヤスデゴケになると書きましたが、和名の「ホシ」はこの眼点細胞らしいものに由来します。
 この眼点細胞らしいものについては、真の眼点細胞(ocellus)ではなく,ocellus-like cell(眼点のような細胞)とそこから生じる gemma(無性芽)とされています(古木:2019、古木:2020)。 なお、このような“眼点のような細胞”のあるタイプは、無いものに比較して、産地は限られているようです。

 上は背片で、背縁基部はやや耳状に膨らんでいます。

 上は背片の葉身細胞です。 1年以上前の標本で、油体は消えています。

【参考文献】
片桐知之・古木達郎(2018).日本産タイ類・ツノゴケ類チェックリスト,2018.Hattoria9:53-102.
古木達郎(2019).ホシオンタケヤスデゴケ Frullania schensiana var. punctata の眼点細胞.蘚苔類研究12(1):31.
古木達郎(2020).オンタケヤスデゴケ Frullania schensiana の無性芽.蘚苔類研究12(3):76-78.

2025-10-27

タカサゴサガリゴケ

 写真はタカサゴサガリゴケ Pseudobarbella levieri でしょう。 福岡県・古処山の山頂に近い登山堂脇の枝から垂れ下がっていました。 屋久島ではたくさん見たコケですが(こちら)、屋久島以外では初めて見たと思います。 分布は平凡社では本州(神奈川県箱根以西)~琉球となっています。

 イトゴケやキヨスミイトゴケなどと比べると、葉は茎に対して90°に近い角度でついています。 上の写真では少し乾き気味でねじれてはっきりしませんが・・・

 湿った状態では葉は茎や枝の先まで見かけ上扁平についています(上の写真)。

 葉は卵形の下部から漸尖し、葉先は細く糸状に伸びています(上の写真)。 葉縁はほとんど波打たず、ほぼ全縁に歯があります。 中肋は1本で、葉の中央部以上に達しています。

 葉身細胞は線形で、中央に1個のパピラがあります(上の写真)。

2025-10-26

ヒメカガミゴケ

 オオウロコゴケなどの苔類の隙間からたくさんの蘚類の胞子体がを突き出ています。 蒴は少し傾き、長い蒴柄があります。 胞子体は古いものが目立ちますが、よく見ると新しい胞子体がたくさん伸びてきています。 蘚類の配偶体はわずかしか見えていませんが、オオウロコゴケと比較して分かるように、小さなコケです。

 上は最初の写真に接した所で、胞子体は少ないのですが、配偶体の様子はよく分かります。 持ち帰って調べた結果、このコケはヒメカガミゴケ Brotherella complanata だろうと思います。


 茎の幅は葉を含めて1㎜以下で、不規則な羽状に分枝しています(上の2枚の写真)。

 上は茎葉(のはず)です。 野口の図や平凡社の記載に比較すると、少し幅が広すぎるようなのですが、Brotherella(カガミゴケ属)は変異が大きいようです。



 翼部には黄褐色の細胞が並んでいます(上の3枚の写真)。

 葉の上部には目立たない歯がまばらにありました(上の写真)。

 上は葉身細胞です。 平凡社では葉身細胞の長さは 65~85μmとなっていますが、それより長く、90~120μmでした。

 蒴の長さは約 2.5㎜、蒴柄の長さは1cmを超えています。

 上は蒴歯を蒴の内側から見ています。 蒴歯は外蒴歯と内蒴歯の2列で、内蒴歯には1本の短い間毛があります。

 上は蒴壁を蒴の内側から見ていて、右が蒴口の方向、左が頸部の方向です。 平凡社には本属の特徴の1つとして、蒴壁の細胞は縦方向の壁だけが厚いと書かれています。 縦方向と横方向の壁の厚さの違いはよく分かりませんが、縦方向の壁が、特に上の写真よりも低倍率では、よく目立っていました。 なお、蒴壁を外側から見た場合も同様でした。

(2025.9.29. 福岡県 野河内渓谷)

◎ ヒメカガミゴケはこちらにも載せています。

2025-10-25

ヒメシノブゴケ

 雨で濡れて分かりにくくなっていますが、上はヒメシノブゴケ Thuidium cymbifolium のようです。 上の写真では岩上を這う茎はあまり目立たず、そこから出る枝がよく目立っています。

 茎は3回羽状の枝を平らに出しています(上の写真)。 上の写真の目盛の単位は㎜です。

 上の写真は、茎葉(上)と、その葉先(下)です。 茎葉は三角形の基部から急に細くなって長く伸び、葉先には1列の透明な細胞があります。

 上は枝で、枝葉は卵形で鋭頭です。

 葉身細胞には先の分かれない鋭いパピラが1個あります。 上は枝葉ですが、茎葉でも同じです。

 茎は毛葉に覆われています(上の写真)。 上の写真では左上隅などに少し茎の表面が見えています。

 上は毛葉です。

(2025.9.29. 福岡県 野河内渓谷)

◎ ヒメシノブゴケはこちらにも載せています。

苔・こけ・コケ展 2025

 京都府立植物園で開催の「苔・こけ・コケ展」、今回は12回目の開催ですが、昨年度より内容を大幅ボリュームアップさせます。
 植物会館1階展示室では、「コケ植物を知る」ことを中心に、コケの栽培品・標本・写真などを展示します。 顕微鏡も自由に使っていただけます(もちろん必要な方には補助もします)。 また、展示品を基にコケの解説ツアーも実施します。
 2階の多目的室などでは、「コケ植物を楽しむ」ことを中心に、コケテラリウム作成などのワークショップや作品展示などを行います。

第12回 京都府立植物園 苔・こけ・コケ展
期間:令和7(2025)年 11月7日(金)~9日(日)
    9:00-17:00(9日は16:30で終了)
会場
  展示:植物園会館展示室及び会館前
  ワークショップ:植物園会館2階多目的室、外テント
  関連講演会:植物園会館研修室
  観察会:園内
主催:京都府立植物園、岡山コケの会関西支部(オカモス関西)
後援:日本蘚苔類学会

観察会
 ①「植物園内のコケ」 
  日時  :11月7日(金)・8日(土)・9日(日) 10:30~12:00(注1)
  集合場所:植物園会館前
  講師  :岡山コケの会関西支部有志
  協力  :日本蘚苔類学会
  定員  :なし(受付開始は30分前から)
  資料代 :500円(注2)
 ②「展示場内のコケ説明」 
  日時  :11月7日(金) 13:00-14:30
       8日(土)・9日(日) 2日とも15:00-16:30
  集合場所:1F受付付近
  講師  :岡山コケの会関西支部有志
  協力  :日本蘚苔類学会(予定)
  定員  :なし(受付開始は30分前から)
  資料代 :500円(注2)
(注1) 雨天の場合は、「展示場内のコケ説明」を行います。
(注2) 資料代であり、参加費はいただきません。
  購入した資料を持参していただければ、何度でも無料で参加していただけます。
  (来年度も同じ資料を使用する予定です。)

関連講演会
 ① 講演会名:コケ研究の最前線「ゼニゴケ研究が拓く未来」
  日時:11月8日(土)午後1時00分から2時30分
  場所:植物園会館2階研修室
  後援:日本蘚苔類学会
  講師:久永哲也(奈良先端科学技術大学 助教)
  定員:60名
 ② 講演会名:コケ研究の最前線「日本からも発見されたコケ植物の化石について」
     恐竜の時代の琥珀を実際に触ってみよう
   日本産のコケ植物化石の研究の話と実演や体験
  日時:11月9日(日)午後1時00分から2時30分
  場所:植物園会館2階研修室
  後援:日本蘚苔類学会(予定)
  講師:片桐知之(高知大 理工学部 講師)
  定員:60名

 

2025-10-19

ナガエノスナゴケ


 上はナガエノスナゴケ Dilutineuron canaliculatum でしょう。 これも10月8日に千苅浄水場の岩上で育っていたコケです。 スナゴケの仲間(旧シモフリゴケ属)は分類が大きく変わり、属が細分化されています。 本種はこれまでにもこのブログに載せていますが(こちらこちら)、今回は、検索表をたどるように写真を載せ、新しい検索表で再確認してみることにしました。
 属の検索は蘚苔類研究12巻3号に載せられている出口ら(2020)の「日本産シモフリゴケ類の分類の現況」にある検索表によりました。

写真3

 上は葉身細胞です。 検索表の[ 1.パピラ(乳頭)あり]を選び、 2.に進みます。

写真4

 上は葉の基部です。 写真3と併せて検索表は[ 2.隔壁上にかぶさるように平坦な大きなこぶ状の乳頭がある;翼細胞は不明瞭,褐色~黄橙色で,決して透明にはならない]を選び、 検索表の 3.に進みます。

写真5

写真6

 上は葉と葉先です。 検索表の[ 3.葉の透明尖はないかあっても平滑ないし鋸歯状で,決して乳頭はなく,また明瞭には下延しない;(蒴に関しては略);中肋は葉頂に達せず,葉頂から離れたところで終わり,しばしばまばらに棘状に分枝する]を選び、 4.に進みます。

写真7

 上は葉の4カ所の断面を合成したもので、上から ①葉頂近く、②葉先から1/6ほどの所、③中央やや下、④基部近く の断面です(同一の葉ではありません)。 葉の上部(①や②)では中肋が存在しません。 なお、葉縁は①と②しか載せていませんが、③も④も葉縁の細胞は1層でした。
 検索表の 4.は下のようになっています。
4. 葉頂部葉身細胞は短く,等径;中肋の厚さは葉身の厚さに比べて厚く,その輪郭は明瞭,基部で幅80 μm 以上,上部で2‒3 細胞層,下部で3‒6 層,一列の大形の腹面ガイド細胞と小形の中央・背面細胞をもつ,背面側に著しく突出し,広く開いた葉の浅い溝の底に位置する;葉は舌状~広卵状披針形か披針形 . . . . チョウセンスナゴケ属Codriophorus
4. 葉頂部葉身細胞は長方形~線形(例外:D. brevisetum);中肋は薄く,葉身の厚さとあまり差がなく,その輪郭は不明瞭;基部で幅70 μm 以下,葉基部で縦襞のある葉身部の襞の間に沈生し,腹面側に突出し,背面はほぼ平坦;葉は狭披針形~披針形 . . . . . . . . . . . . . ミヤマスナゴケ属Dilutineuron

 この 4.は、葉頂の葉身細胞はほぼ等径で、すぐに長方形に移行するなど、違いがわずかで難しいのですが、断面の、特に中肋の腹面側が膨れていることに注目し、ミヤマスナゴケ属だろうと思いました。

 種の検索は、2019年の日本蘚苔類学会でいただいた出口先生の資料を使わせていただきました。 この資料では上記検索表で迷ったチョウセンスナゴケ属とミヤマスナゴケ属がまとめられた検索表が提供されています。 この2つの属はそれほど似ているということでしょうか。
 この検索表は、葉身上部の細胞が方形か長方形かで始まっています。 上に書いたように、この違いは悩ましいのですが、上で葉の断面の様子からミヤマスナゴケ属を選び、この属の
葉頂部の葉身細胞は長方形でしたので、長方形を選び、5.に進みます。
 写真5の様子から[ 5.中肋は葉の3/4-5/6に達する;葉の上部は蛇状にうねらない ]を選び、6.に進みます。
 [ 6.中肋は葉の腹側に膨れ上がる(convex);背面は平坦~しばしば溝状にくぼむ;中肋は葉の縦ひだの中に落ち込んで位置することが多い;葉の先端部はとさか状 ]を選ぶと、ナガエノスナゴケ Dilutineuron canaliculatum になります。 なお、中肋が葉の腹面に膨れ上がっていることや、中肋が葉の縦ひだの中に落ち込んでいる様子は写真7の④から分かりますし、中肋背面がしばしば溝状にくぼむことは写真7の③から分かります。 また葉の先端部がとさか状であることは、写真6で分かります。

 なお、検索表では使われなかった形質ですが、本種の葉縁基部には、壁が波打たない透明な細胞が1列につながっています。 写真4では分かりにくいので、下に載せておきます。

写真8


2025-10-15

無性芽をつけたヒメクサリゴケ

 写真はヒメクサリゴケ Cololejeunea longifolia でしょう。 10月8日のオカモス関西の観察会で、千苅浄水場の岩上に育っていました。
 ルーペで上のようなコケを見た場合、Drepanolejeunea(サンカクゴケ属)の可能性もあるのですが、顕微鏡で観察したところ腹葉は無く、Cololejeunea(ヒメクサリゴケ属)であることが分かりました。

 顕微鏡で観察すると(上の写真)、ゴミも多いのですが、円い無性芽がたくさんついています。

 上は葉についている無性芽です。 無性芽は1細胞層の円盤状で、3カ所から上下に角のような突起があるのですが、無性芽はいろんな方向を向いているので、分かりにくいですね。

 上の写真、右上の無性芽はほぼ真横から見ていますので、“角”の様子がよく分かります。

 上は葉から離れて散らばっていた無性芽です。 無性芽の直径は、上の写真では 65~95μm、平凡社では 80~150μmとなっています。


 上の2枚は葉です。 背片は長楕円形で、腹片の第1歯は2細胞からなり、第2歯も明瞭です。

 葉身細胞は薄壁で、トリゴンは小さく、中間肥厚しています(上の写真)。

◎ ヒメクサリゴケはこちらこちらにも載せています。 また、上のような無性芽は本種の仲間数種に見られるようで、こちらに載せています。