2019-08-17

「コケの国のふしぎ図鑑」について

 7月14日発売の「コケの国のふしぎ図鑑」の紹介が、8月17日の朝日新聞の読書頁の「情報フォルダー」で紹介されました(下の写真)。

この図鑑は、異なる拡大率の大きな写真に特徴があり、上でもそのことが紹介されています。 たしかに小さなコケの特徴を示すには、大きな写真が必要で、アマゾンのカスタマーレビューでも、拡大した写真に感動、苔の魅力が詰まっている、拡大写真で楽しめる、拡大されていてわかりやすい、などの感想が寄せられています(2019.8.17.現在)。

 この本の出版に関して、著者としては次のようなことを考えていました。
 最近のコケブームを反映して、様々なコケ関連本が出版され、図鑑もたくさん出版されていることもあり、この本では ① 図鑑としての機能 はもちろんですが、それに併せて、② 写真集的にコケの魅力を楽しんでもらうことと、③ 本全体を通してコケ植物の解説書としての機能を持たせたいと考えました。

 本をパラパラと見ていただくと、②については理解していただけるでしょうし、最初に書いたように、一定の評価をいただいていると思います。 また、コケテラリウムも、見て楽しんでいただいたり自作の参考になることに加え、いろいろなコケの大きさを比較することにも役立ちます。

 ③については、少し読み込んでいただかないと理解していただけないと思いますが、種の解説に絡めてコケ植物の特性を紹介したり、コラムでは、コケ植物の組織、分布、生態、生殖について書いています。 また、ある程度コケについての知識が増えると、体系的な理解が必要となり、分類的な知識が求められます。
 本書では、本の後ろに「五十音順さくいん」の他に「分類順さくいん」をつけています。 たったの2ページですが、このようなページを設けている本は少ないはずです。
 このページは、ある程度コケについての知識を身につけた人には、積極的に使ってほしいと思います。 同じ科に分類されているコケには共通点があり、コケの理解に役立ちます。 また、科の配列は進化の道筋に沿って並べてあるので、種の解説と科の位置とを対比することで、コケの進化の道筋を読み解くヒントにもなります。 一例として胞子体の変化を見ていくと、スギゴケ科以下で柄のある胞子体となり(ミズゴケ科の胞子体には柄が無い)、胞子体のつく位置は、茎の頂から、ヒノキゴケ科やタチヒダゴケ科の移行段階を経て、腋生に変化していることがわかります。

 ただこの「分類順さくいん」で少し残念だったのは、「科」のさらに上位段階である「目」を、行数の関係で入れられなかったことです。 「目」がわかれば、進化の過程がさらによくわかるでしょうし、「目」以上の関係は「コケ植物系統樹ポスター」で分かります。
 そこで本書を購入していただいた方のアフターケアを兼ねて、本書に掲載されている科が何目になるのかの一覧表を下に載せておきます。

コケ植物の分類(目と「コケの国のふしぎ図鑑」掲載の科)


【ツノゴケ類】

ツノゴケ目
  ツノゴケ科
ツノゴケモドキ目
  ツノゴケモドキ科

【苔類】

コマチゴケ目
  コマチゴケ科
ウスバゼニゴケ目
  ウスバゼニゴケ科
ゼニゴケ目
  ミカヅキゼニゴケ科
  ゼニゴケ科
  ジンガサゴケ科
  ヤワラゼニゴケ科
  ジャゴケ科
  ウキゴケ科
  ケゼニゴケ科
ミズゼニゴケ目
  ミズゼニゴケ科
ウロコゼニゴケ目
  マキノゴケ科
クモノスゴケ目
  クモノスゴケ科
フタマタゴケ目
  フタマタゴケ科
クラマゴケモドキ目
  クラマゴケモドキ科
  ヤスデゴケ科
  クサリゴケ科
ツボミゴケ目
  ムクムクゴケ科
  ムチゴケ科
  ウロコゴケ科
  ハネゴケ科
  ヤバネゴケ科
  ヒシャクゴケ科
  ツボミゴケ科

【蘚類】

ミズゴケ目
  ミズゴケ科
スギゴケ目
  スギゴケ科
キセルゴケ目
  キセルゴケ科
イクビゴケ目
  イクビゴケ科
ヒョウタンゴケ目
  ヒョウタンゴケ科
エビゴケ目
  エビゴケ科
ギボウシゴケ目
  ギボウシゴケ科
シッポゴケ目
  ホウオウゴケ科
  キンシゴケ科
  ブルッフゴケ科
  ヒナノハイゴケ科
  ヒカリゴケ科
  ヤスジゴケ科
  シッポゴケ科
  シラガゴケ科
センボンゴケ目
  センボンゴケ科
オオツボゴケ目
  オオツボゴケ科
ヒジキゴケ目
  ヒジキゴケ科
タマゴケ目
  タマゴケ科
マゴケ目
  ハリガネゴケ科
  チョウチンゴケ科
ヒノキゴケ目
  ヒノキゴケ科
タチヒダゴケ目
  タチヒダゴケ科
クジャクゴケ目
  クジャクゴケ科
アブラゴケ目
  ホソバツガゴケ科
  アブラゴケ科
ハイゴケ目
  コウヤノマンネングサ科
  ヤナギゴケ科
  ウスグロゴケ科
  シノブゴケ科
  アオギヌゴケ科
  コゴメゴケ科
  ハイゴケ科
  イワダレゴケ科
  ツヤゴケ科
  コモチイトゴケ科
  ナガハシゴケ科
  ヒラゴケ科
  キヌイトゴケ科

(それぞれの科にどのような種が属しているかは、「コケの国のふしぎ図鑑」をご覧ください。)

2019-08-09

チャボスズゴケ


 樹幹に張り付いた黒っぽいコケ(上の写真)、葉が密着した短い枝が規則的に出ていて、長く伸びた枝から葉が左右に出ているように見えます。


 上は乾いた状態、下は濡れた状態です。 スケールの数字の単位はmmで、上下の写真の倍率は同じです。


 枝葉と茎葉の長さには、かなりの差があるようです。


 上の写真の左は茎葉で、右が枝葉です(左下が欠けています)。 茎葉は広卵形の下部から急に細くなっています。 できるだけゴミの少ない葉をと思い、若い葉を取りましたが、古い茎葉では、鋭尖部がもっと長く伸びた葉もありました。 中肋は鋭尖部に終わっています。
 上の赤い四角で囲った所に何かついているように見えますが、これを拡大したのが下です。


 拡大すると、毛葉でした。 後に書くように、毛葉は茎にたくさん見られ、この毛葉も葉を剥がす時に茎にあったものがついてきたのだと思っていたのですが、上のように拡大すると、毛葉は葉の下部からも出ているようです。



 葉身細胞は厚壁で、1~数個のパピラが見られます(上の2枚の写真)。


 上は茎についている毛葉です。 透過光で陰になる所を撮ることになり、無理に明るくしていますので、色は変になっています。

 枝葉と茎葉の葉の形、毛葉の存在や葉身細胞の様子などから、シノブゴケ科に分類されるコケでしょう。 平凡社図鑑のカラー図版とは印象が違いますが、チャボスズゴケ Boulaya mittenii のように思います。 なお、スズゴケはスズゴケ科ですので、分類的にはかなり離れていて、ルーペや顕微鏡レベルでは、違いははっきりしています。

(2019.5.26. 京都府 芦生研究林)

◎ チャボスズゴケはこちらこちらにも載せています。

2019-08-03

シゲリクラマゴケモドキ


 上はシゲリクラマゴケモドキ Porella densifolia var. fallax です。 水の滴る岩の上に育っていました。 背片は楕円状三角形で、葉先には1~3個の歯が見られます。


 上は腹面からの深度合成です。 舌形の腹片は密に重なっています。 腹葉は、どちらも舌形で、よく似ています。 茎の幅は、葉を含めて3mmほどです。
 

 平凡社の図鑑のクラマゴケモドキ属の検索表は、背片と腹片が腹片の幅の1/5以上で合着するか、背片と腹片の接する長さがもっと短いかから始まっています。 上は腹片の基部の様子を見るために、一部の腹葉と腹片を取り除いて撮った写真です。 腹片の基部は茎に寄っていて、背片とは短く接しているようです。 また、腹片の基部にはひだが見られますが、これもシゲリクラマゴケモドキの特徴です。


 上は横から撮ったもので、下が背面、上が腹面です。 少し乾いてきて、腹葉が反り始めています。
 背片と腹片との隙間の奥に茎が見えています。 このことも背片と腹片が短くしか接していない傍証になるでしょう。


 上は、少し破れていますが、腹片です。 腹片と背片がつながった状態で茎から外そうとしたのですが、できませんでした。 これも背片と腹片が短くしか接していないためでしょう。


  上は、ゴミが多いですが、腹葉です。 腹片と同じ拡大率で撮っています。

 シゲリクラマゴケモドキは、大阪付近ではそんなに珍しいコケではありませんが、暖温帯のコケで、平凡社の図鑑では、福島県以西の分布となっています。

(2019.7.8. 和歌山県側の岩湧山麓)

◎ シゲリクラマゴケモドキはこちらこちらにも載せています。

2019-07-30

シダレヤスデゴケのスチルス


 上はシダレヤスデゴケ Frullania monilliata を腹面から反射光で撮ったものです。 と言っても、上の写真を見て、背片の先端が鋭尖であることや、腹片や腹葉の様子から種名を言い当てる事ができる人は、いろんなコケを見慣れている人でしょう。


 上は顕微鏡を使って(=透過光で)撮ったもので、眼点細胞の存在が確認されれば、種名は容易に分かるでしょう(こちら)。

 苔類の葉の腹片の基部には、スチルスまたは柱状細胞と呼ばれる糸状のものがついていることがあり、その形態を同定に使ったりもされています。 これまでにナガシタバヨウジョウゴケシゲリゴケなど、シゲリゴケ科のスチルスをこのブログにも載せてきました。
 じつはヤスデゴケ科のコケにも腹片の腹縁基部にスチルスがあります。 下がシダレヤスデゴケのスチルスです。


(写真のシダレヤスデゴケは 2019.6.12.に神戸市北区の道場で採集したものです。)

(スチルスについてのメモ)
 スチルス(stylus:英語的にはスタイラス)は、ギリシア語で柱を意味する stulos が語源で(Wikipedia)、英和辞典で調べると、(レコードプレーヤーの)針や、ろう版に字を書く尖筆(せんぴつ)などが出てきます。 現代では、先の尖った棒状の筆記具の意味から発展し、電子機器のポインティングデバイスの名称としても使われています。
 CSSメタ言語の一つに「Stylus」がありますが、これも言語としての鋭さと柔軟性の意味を含めているのでしょうか。

2019-07-27

ナメリチョウチンゴケいろいろ


 上はナメリチョウチンゴケ Mnium lycopodioides ですが、今回は上の写真から、ナメリチョウチンゴケの
  (1) 古いコケと新しいコケの変水性の違い
  (2) 古くなった葉の色の変化
  (3) さまざまな葉形
 について、気づいたことや思ったことを書いてみたいと思います。

(1) 古いコケと新しいコケの変水性の違い
 多くのコケは乾くと休眠状態に入り、水を得ると素早く回復する性質を持っています。 水の有無により生命活動の状態を変化させるこの性質を変水性と呼んでいますが、休眠時に葉が縮れたり巻いたりする種類も多くあり、ナメリチョウチンゴケもそのうちの一種です。
 上は、よく乾いて葉の巻いた状態の①と②に同時に水を与えて2~3分後に撮った写真です。 葉の色から分かるように、①の方が若いのですが、回復が遅れています。 同様のことは、ほかのコケでも度々経験しています。
 なぜこのようなことが起こるのでしょうか。 若い葉では細胞壁がまだ軟らかく、復元力が弱いのでしょうか。 若い葉の細胞の方が吸水力が弱いのでしょうか。 それとも・・・

(2) 古くなった葉の色の変化
 1枚目の写真で、①より②の葉が、また②でも上より下の葉が赤くなっています。 つまり古い葉ほど赤くなっています。 下は1枚目の写真のa付近の葉です。


 上の写真を見ると、細胞壁を中心に赤くなっています。 種子植物の紅葉は細胞質内の液胞にアントシアンが蓄積されることによりますから、これとは別のしくみが働いているのでしょう。
 コケ植物の細胞壁は全透性ですから、水溶性の色素が入り込むことは不思議ではないのですが、赤く染めている色素は何なのか、生態的にはどのような意味を持つのか、ネットで調べたのですが、答は見つけられませんでした。

(3) さまざまな葉形

 上の写真のaにある葉とbにある葉では、葉形はずいぶん違います。 bのところの葉も顕微鏡で拡大して比較してみました。


 上は2枚目の写真とほぼ同じ倍率で撮影していますが、葉の幅は狭く、長さは長くなって1枚の写真に入りきりません。 葉身細胞の大きさも違うようですし、aの葉には歯が見られませんが、bの葉にはたくさんの歯が並んでいます。 同じ茎についている葉でも、このように異なります。


 上はb付近の葉の歯を拡大した写真で、歯は双歯です。

(観察したコケは、2019.6.12.に神戸市北区の道場で採集したものです。)

◎ ナメリチョウチンゴケはこちらに載せています。