2018-09-30

カラフトキンモウゴケ

 Part1の 2014.1.28.からの引っ越し記事です。(一部変更しています。)
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 写真はタチヒダゴケ科のカラフトキンモウゴケ Ulota crispa です。 1月20日の撮影ですが、ほとんどの蒴は胞子を飛散させてしまっています。 しかし、ほんの少しですが、まだ帽を被ったままの蒴が残っていました(下の写真)。


 上の写真の中央は外れたばかりの帽で、右端にはピントはずれていますが帽のある蒴があります。 カラフトキンモウゴケの帽はたくさんの毛があるタイプです。 胞子の飛散は、この帽が取れて、蒴の口にある蒴歯(さくし)が開いて行われます。


 カラフトキンモウゴケは木の幹に着生する蘚類です。 上がその様子です。
 カラフトキンモウゴケなどのキンモウゴケ属は、上の写真のように、葉を縮れさせて乾燥に耐えていますが、水に濡れると、下の動画のように、すぐに葉を広げます。


 上の動画は微速度撮影ではありません。 通常の時間経過です。 片手でカメラを構え、もう片手で霧吹きでカラフトキンモウゴケに水をかけましたので、画面が揺れて見苦しいですが・・・。
 シュッシュッ・・・というのが霧吹きで水をかけている音です。 水に濡れると、葉はすぐに伸びます。 なお、途中でカカカカ・・という音が入っていますが、これはカメラがピントを合わそうとしている音です。


 上は葉が伸びた状態です。 蒴も膨らみ、襞が消えています。

(2014.1.20.、1.28. 堺市南区岩室)

◎ 5月の帽のある蒴をこちらに載せています。


オオバチョウチンゴケ

 オオバチョウチンゴケ Plagiomnium vesicatum の顕微鏡レベルを中心とした観察結果はこちらに載せていますが、植物体が良い状態ではなかったので、改めて下に載せておきます。



(2017.9.13. 京都市 西芳寺川)


2018-09-29

ホソウリゴケ


 上は湿らせたホソウリゴケ Brachymenium exile、下は同じホソウリゴケの乾いた状態です。


 一般に身近なコケは同定が難しいと言われていますが、このホソウリゴケもギンゴケやハリガネゴケなどと混じって生えることも多く、さすがに(?)同じハリガネゴケ科ということもあって、見分けるのが難しいという人も多いようです。
 特にホソウリゴケの若い葉は明るい緑色でギンゴケと似ていますし(こちら)、乾燥していると、ギンゴケのように白っぽく見えることもあります。 しかし葉を1枚剥がして顕微鏡で観察すると、ギンゴケの葉には葉緑体を持たない細胞が葉の上部にありますが(こちら)、ホソウリゴケにはそのような細胞はありません。
 ハリガネゴケとも、葉を1枚剥がしてみると、ホソウリゴケの葉は卵形で、ハリガネゴケの葉は倒卵形です。 また乾くと、ホソウリゴケの葉は茎にくっつくだけですが、ハリガネゴケの葉は螺旋状にねじれます(こちら)。


2018-09-28

ユリの観察(花粉粒など)


 ユリの花をいただきました。 カサブランカという品種でしょうか。

 美しいものを美しいと鑑賞すればいいものを、いろいろ調べたくなるのが私の悪い癖。 メシベとオシベの関係を観察すると、蕾が開いた時には、もう花粉は成熟しているようです。 この時、メシベの柱頭は乾いているのですが・・・


 2~3日経つと柱頭が濡れてきます。 花粉がくっつき易くするためとしか思いつかないのですが、あまり多すぎると、花粉が洗い流されてしまうような気もします。


 花粉を観察してみました。 オシベの葯からほんの少し少し花粉の集まりを取って水を加えてプレパラートにすると、黄色の液体の中にたくさんの花粉粒が見えます。 このプレパラートをカバーグラスの上から指で押さえて、黄色の液体から外れた花粉粒を深度合成したのが上の写真です。
 ユリの花粉は衣類やカーテンなどにつき易く、つくとなかなか取れずに困るので注意が必要ですが、その原因はこの黄色の液体にありそうです。 本来は花粉が虫の体にくっつき易くするための液体でしょうが、成分的には油分が多いようでベタベタしています。 上の写真でも、花粉粒の表面に、まだこの黄色い液体が点々と残っています。

 ところでこの花粉粒には、溝が1本見えています。 この溝について、下に少し書いてみます。

 被子植物の系統については、ゲノム解析から旧来とはかなり異なった系統樹が作られています(こちら)。 これを大きく眺めると、被子植物は、2つの単系統群(クレード)と1つの側系統群(グレード)の計3つに大別できます。 つまり、単子葉類と真正双子葉類の2つの単系統群と、この2つ以外の基部被子植物または原始的被子植物です。
 この3グループと関連する本質的な形態の違いの1つが、花粉粒の溝です。 いろいろな被子植物の花粉を調べてみると、基部被子植物と単子葉類の花粉粒は単溝粒またはその派生型であるのに対し、真正双子葉類の花粉粒は三溝粒またはその派生型です。

 ユリは単子葉類ですから単溝粒ですね。

2018-09-26

9月のエダツヤゴケ




 エダツヤゴケ Entodon flavescens が胞子体をつけはじめていました。
 下は、全く同じ場所で、4月下旬に撮ったもの(詳しくはこちら)です。 今回の上の写真は、コブラが鎌首を持ち上げたような下の写真とは外見が全く異なります。 葉を顕微鏡で見れば同じなのですが、季節によって姿が変化するのはエダツヤゴケに限ったことではありません。


(2018.9.12. 京都市 大原)

◎ 蒴が太くなって帽が取れかかっている11月の姿をこちらに載せています。

2018-09-25

クヌギシギゾウムシ

 クヌギの果実(ドングリ)にクヌギシギゾウムシ Curculio robustus がいました(上の写真)。 産卵のため、クヌギの殻斗を口吻で貫いて、ドングリの下側の柔らかい部分を穿孔しますので、長い口吻を持っています。 和名の「シギ」は、この口吻がシギ(鴫)という鳥の長いクチバシに似ていることからでしょう。
 写真は大阪府堺市の泉北ニュータウン内の槇塚公園で9月中旬に写したものです。 この日は、クヌギの下に生えているササの葉の上など、あちこちでクヌギシギゾウムシの交尾が見られました。

 上はクヌギの枝にいた交尾中の個体です。 上が雄で、少し小型です。 長い口吻に、長い触角を穿孔時に収納するスリットがあるのがよく分かります。
 クヌギの果実に穿孔し、産卵するのは雌のみだと思うのですが、雄の口吻も雌と同じというのが、おもしろく感じられました。

2018-09-24

スキバツリアブ

 Part1の 2013.9.14.からの引っ越し記事です。
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 大阪府河内長野市の岩湧山の近くのハイキング道を歩いていると、日当りのいい所に、スキバツリアブ Villa limbata が何頭かいました(9月9日)。


 スキバツリアブは漢字で書けば「透翅吊虻」で、糸で吊り下げられているようなホバリングをするツリアブの仲間で、翅が透明だということでしょう。


 見ていると、あちこちで、腹端を砂に突っ込んで細かく振動させています(下の写真)。 このような行動は、この場所だけで数例観察できました。



 帰宅後に調べてみると、Aclerisさんのところには、スキバツリアブは腹端部のくぼみに砂粒を取り込むと書かれてあり、腹部の取り込む場所(砂室)と、取り込まれた砂粒の写真も載せておられます。 砂は卵のカムフラージュに使われるようです。
 具体的に砂がどのように使われるのかについても、おちゃたてむしさんとezo-aphidさんとの間で検討されています(こちらのコメント)。 しかし、産卵の現場(砂がどのように使われるのか)の観察例は、まだ無いようです。 産卵の現場をぜひ見てみたいものです。

2018-09-23

コウジタケ


 写真はコウジタケ Boletus fraternus だろうと思います。


 柄は黄色地に赤色の縦条紋があります。 孔口は青変性がありますが、青変が進行すると、ほとんど黒に近い色になるようです。


 肉は黄色で、空気に触れると青変してきます。 においを嗅ぐと甘い香りがします。 和名はこの香りが糀(こうじ)に似ているところからでしょう。


 管孔はやや大きく角形で、管孔面は乱れています。

(2018.9.18. 堺市南区高倉台)

2018-09-22

ミカヅキゼニゴケ


 写真はミカヅキゼニゴケ Lunularia cruciata で、三日月形をした無性芽器が見えます。


 上は腹面です。 鱗片は2列に並んでいて、円形に近い付属物がついています。


 1枚の鱗片を剥がし、その形を確認しようとしたのですが、薄すぎてうまく取り出せませんでした。 上は鱗片を構成している細胞の様子です。


 気室孔の断面を作ってみました(上の写真)。 気室孔はアーチ形で、底には同化糸があります。

(2018.9.12. 京都市 大原)

◎ ミカヅキゼニゴケはこちらにも載せています。

2018-09-21

コムチゴケの腹葉



 写真はコムチゴケ Bazzania tridens です。 これまでコムチゴケは何度か載せていますが(1504 1712)、薄くて葉緑体を持たない腹葉は、ルーペでも顕微鏡でもはっきりしません。 しかし(写真で大きさが分からない場合などで)ムチゴケとの違いがいちばんはっきりするのは、腹葉の形態です。 先日ムチゴケの腹葉を載せましたので(こちら)、比較できるよう、コムチゴケでも腹葉を1枚剥がして顕微鏡写真を撮りました(下の写真)。


 コムチゴケの腹葉の縁は、上のように鈍波状で、全縁のこともあります。

(2018.9.12. 京都市 大原)

2018-09-20

コケ寺リウムとモシュ印

 文字変換の間違いではありません。 9月1日~11月30日に京都の5つの寺院がタイトルのようなキャンペーンを行っています。
 「コケ寺リウム」とは、「コケテラリウム」と「寺」をかけ合わせた造語で、「モシュ印」とは「Moss」と「ご朱印」をかけ合わせた造語です。
 ちなみに、5つの寺院とは、三千院、常寂光院、圓光寺、東福寺、建仁寺で、モシュ印はもちろん、コケ寺リウムも寺院ごとに異なるテーマで展示しているとのことです。
 大原でのコケ観察の終了後、コケ庭の見学に三千院に寄り道したところ、上記のキャンペーンが行われていましたので、以下に載せておきます。

● 三千院のコケ寺リウム





 上の写真は、実際の三千院の庭のわらべ地蔵(下の写真)を表現しているのでしょう。


● 三千院のモシュ印



 いろんなコケへの接し方があるものですね。



2018-09-19

ムチゴケ



 写真はムチゴケ Bazzania pompeana です。 上の2枚の写真は、そんなに離れていない場所で撮っています。 1枚目のように鞭枝が目立って枝がほぼ水平に伸びる場合と、2枚目のように基物に接するように伸びる場合と、何が違うんでしょうね。


 上は腹面から撮っています。 見やすくするために、鞭枝は切り取ってあります。 葉(側葉)の先端には3歯があります。
 コムチゴケ同様ムチゴケの腹葉は葉緑体をほとんど持っていないうえに、その薄さのため、湿ると茎や側葉にくっついて見えにくくなり、乾くと白っぽくなりますが、複葉同士が重なりあったりするとやはりややこしくなります。


 上は腹葉だけを剥がして撮っています。 特に上半部の葉縁は重鋸歯状で、基部の細胞のみが葉緑体を持っています。


 上は腹葉の葉緑体を持つ細胞と持たない細胞の境付近を撮ったもので、下は側葉の葉身細胞です。 比較してみると、前者にはトリゴンが無く、後者にはあるなどの違いが見られます。


(2018.9.12. 京都市 大原)

◎ ムチゴケはこちらにも載せています。

2018-09-18

ヤマアカガエル


 ホソバオキナゴケの生えた木の幹をよじ登るヤマアカガエル Rana ornativentris の幼体です。 本種の体色は、オレンジ色~褐色と個体により変異がありますが、この個体はなかなか美しい色をしていました。


 背面から見ると、ニホンアカガエルの背側線粒上隆条がほぼ平行であるのに対し、本種のそれは鼓膜の後ろから左右から近づくように曲がっています。 なお、周囲に写っているのはコムチゴケで、細い線はコケの隙間に棲むクモの糸です。


 腹面を撮ろうとしてうまく撮れませんでしたが、下顎に斑紋が多いことは何となく分かります。 この斑紋はわき腹にも続いていて、種小名の ornativentris は「飾り立てた腹」の意味で、この斑紋に由来すると思われます。 ちなみに、ニホンアカガエルの下顎には斑紋はありません。

(2018.9.12. 京都市 大原)

2018-09-17

ギンゴケの葉を撮る


 上はギンゴケ Bryum argenteum の葉ですが、少し工夫して撮っています。
 ギンゴケの葉は、葉緑体を持った細胞とそうでない細胞からなるおもしろい葉ですが、これまで1枚の葉をうまく撮れたことがありませんでした。 ギンゴケの葉は丸みがあるうえに、特に葉緑体を持つ細胞と持たない細胞で剛性が異なるのか、その境付近で裂けやすいようで、慎重に扱っても、こちらのようにカバーグラスの重みで葉が裂けてしまいがちです。


 1枚目の葉は、上の写真のよく伸びたギンゴケの葉です。



 上は1枚目の葉の写真を撮って顕微鏡から下ろしたプレパラートです。 要は葉に直接カバーグラスの重みがかからなければいいわけですから、CDの中央付近を切り取ったものをスライドグラスに張り付け、その凹みに葉を入れて水を満たし、カバーグラスをかけています。 市販品にスライドグラスの中央を凹ませたホールスライドグラスがありますが、上のようなものを作れば同様の効果が得られます。
 葉は押し潰されていませんから、葉の中央部と縁とでは高低差があり、1枚目のような写真を撮るには深度合成しなければなりません。 1枚目の写真は、顕微鏡 10×10 の倍率で 15枚の写真を撮り、深度合成しています。

(材料のギンゴケは 2018.9.12.に京都市大原で採集)