2021-08-06

チシマシッポゴケ(検索表で同定)

 

 秋田駒ケ岳で 2021.7.8.に撮った上の写真のコケ、下に書く検索表を使っての同定作業の結果はチシマシッポゴケ Dicranum majus になりました。 和名に「チシマ」とついていますが、北海道から九州の高山まで、広く分布しているコケです。
 胞子を出し終えた昨年の蒴と、まだ帽をつけた新しい蒴とが揃っていて、同定にはとても良い時期ですし、シッポゴケ科は種数も多く似たコケも多いので、今回は平凡社の図鑑の検索表に従って調べ(検索表の記載は一部簡略化しています)、写真も調べた順に載せました。 調べた項目(太字)については、シッポゴケ属への検索とシッポゴケ属内での検索を区別するため、前者は「D」から、後者は「M」から始め、その後ろに続く A~H は平凡社の検索表の記号です。

シッポゴケ科
DA 蒴の蓋は分化する。一般に中形~大形で、茎は長さ5~100mm。

 上は若い蒴で、蓋には長い嘴があります。

 茎の長さは5cm(50mm)近くあります(上の写真)。

DB 蒴の頸部はないか、もしあっても壺よりずっと短い。
 頸部は壺の1/5ほどの長さです。 少し分かりにくいですが、上の DA の写真でも少し段になっています。 写真は載せませんが、蒴の断面を作って確認しました。

DC 葉縁に舷がない。

 上は葉先から1/3ほどの所を腹面から撮っています。 葉の中上部には歯がありますが、舷は葉縁のどこにもありません。

DD 苞葉はあまり長くない。

 上は茎に白色から黒褐色に変化する仮根がびっしりついていることを示すために撮った写真で、上下が逆になっています。 左下に胞子体の基部が写っていますが、葉とほぼ同じ長さの鞘状の苞葉で包まれています。 これはあまり長くないのか長いのか?
 検索時に「あまり」などの表現は迷うのですが、サイズの違うコケを扱っている検索表では具体的な長さを示すことができません。 この場合は、「長い」を選択すると、蒴柄の大部分が苞葉に包まれるマイマイゴケ属にってしまいます。

DE 葉は卵状披針形~線状披針形。
 これは DD の写真でもわかります。

DF 中肋は太くても葉基部の幅の2/3以下。

 中肋は葉基部の幅の1/10以下です(上の写真)。

DG 葉の翼部の細胞はよく分化し、大きくてふつう薄壁。

 DF の写真は葉をいい加減に取ったので、翼部が少ししかついていません。 改めて慎重に葉を茎から離し、拡大して撮ったのが上の写真です。 翼部付近ではどこまでが中肋か、はっきりしませんが、翼部はよく分化し、大きくて薄壁の細胞があります。

DH 帽は平滑で下端に毛はない。
 DA の写真で確認できます。

DI 中肋の横断面でステライドは明瞭。

 上は葉のほぼ中央の横断面です。 中肋のステライドは明瞭です。

DJ 蒴柄は湿っても屈曲しない。葉は鞘部から漸尖し、葉身部の大半が中肋で占められることはない。
 いちばん最初の写真も湿った状態ですが、蒴柄は屈曲していませんし、葉が漸尖するのは DD の写真でも確認できます。 中肋が葉身部の大半を占めていないことは DC や DF の写真でも分かりますが、念のため葉先の写真を下に載せておきます。 中肋は色の濃い部分ですが、葉先近くでも中肋の占める割合はわずかです。

 以上でシッポゴケ属であることが分かりました。

 平凡社のシッポゴケ属の解説を読むと、シッポゴケ属の特徴として、翼部の細胞がよく分化することや、蓋に長嘴があることなど、上で見た特徴以外に、蒴に気孔があることや蒴歯が中部まで2裂していることなどが挙げられていますので、これについても調べました。

 上は蒴の頸部にあった気孔です。

 上は胞子を飛ばして空になった昨年の蒴です。 蒴歯は1層16本で、正面から見ると上部は2裂しています。

 以下はシッポゴケ属内での検索です。

MA 蒴は傾き非相称、葉の翼部は断面で2細胞層以上の厚さがある。
 蒴が傾き非相称であることは DA の写真でも分かりますが、DG の翼部の断面も作ってみました

 上が翼部の横断面です。 写真の左側は葉縁まできれいに残っていませんが、翼部の一部はたしかに2細胞層になっています。

MB 葉に横じわがない。
 これも DC や DF の写真で確認できます。

MC 蒴柄は1茎に1~数本出る。葉身上半の細胞の背面に著しい刺かパピラがある。

 上は DA の写真の再掲です。 上の写真では、茎は途中で枝分かれし、写真下の茎では4本の蒴(うち1本は折れて途中で生長が止まっています)がついていて、写真上の茎でも4本の蒴(うち3本は途中で折れて先が失われています)がついています。

 上は葉の上部で2つ折れになっている葉で、背面も腹面も見えています。 「葉身上半の細胞」という表現は、上半の葉身細胞ととれます。 しかし上の写真のように葉縁と中肋背面に歯があるのですが、葉身細胞の背面には歯も刺もパピラもありません。 少し問題を感じます。

MD 葉身上半の細胞は細い菱形~楕円形、中肋は細く、下部で葉の幅の 1/10以下。
 葉身上半の細胞の形は上の MC や DJ の写真で確認できます。 また中肋が下部で葉の幅の 1/10以下であることは DF で書きました。

 以上、検索表をたどることで、チシマシッポゴケと同定できました。

◎ チシマシッポゴケはこちらにも載せています。

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