2025-01-24

ツルデンダ

 写真はツルデンダ Polystichum craspedosorum でしょう。 大きな石灰岩の上で育っていました。 私がこれまでに六甲山や滝畑などで本種を見た岩は石灰岩ではありませんでしたが、図鑑を見ると、石灰岩上でもよく見られるようです。

 包膜は大きく、ソーラスを深く包み、ふつうは羽片の中肋の前側に1列に並びます(上の写真)。 中軸には黄褐色から褐色の鱗片をやや密生し、鱗片の縁には毛があります。 また葉裏にも線形の鱗片があります。

(2023.12.31. 高知県 横倉山)

2025-01-19

コミミゴケ


 古いコウヤコケシノブの葉についている白っぽい緑色のひも状のコケ、調べてみるとコミミゴケ Lejeunea compacta でした。

 上は背面から撮っています。 反射光と透過光を併用して撮りましたので、気泡が小さい粒子状に写っています。
 背片は重なり、強く内曲しています。 重なっているために基部はわかりませんが、上部は三角形で鈍頭です。

 上は腹面から撮っています。 腹葉は背片とほぼ同じくらい大きく、1/3~1/2までV字形に2裂しています。 上の写真では茎の太さがぼんやりとしか分かりませんが、腹葉の幅は茎径の約3倍です。
 腹片はあるのですが、大きな腹葉に隠されていて、ぼんやりとしか見えません。

 上は腹葉(左)と背片(右)です。 腹葉は長さと幅がほぼ同長で、基部が耳状になっています。 背片の写真下方に長く突き出している部分は、腹片と重なっている部分で、長さは背片の約1/3の長さです(この長さは腹片の長さでもあります)。


 上の2枚は、腹葉を取り除いて撮った腹片です。 腹片の歯牙は1細胞からなり、キール側の縁は環状に曲がっています。

 葉身細胞は薄壁で、大きなトリゴンがあります(上の写真)。 油体は4~8個で、微粒の集合です。

(2025.1.11. 神戸市北区)

こちらには雄花序をつけた本種を載せています。 またこちらには、背片、腹片、腹葉の大きさの比が上と少し異なる(種内変異)ものを載せています。

2025-01-18

ヒョウタンゴケのフェノロジー

 1月、ヒョウタンゴケ Funaria hygrometrica の帽の長い角が葉の間から突き出ていました。 まるで伸び出したばかりの細い蒴のようです。 ヒョウタンゴケはよく知られているコケで、蒴はよく目立ちますが、このような姿を見た人は多くないだろうと思い、Facebookでクイズ形式で名前が分かるか、聞いてみました。
 出題したからには正解を示す写真を準備しなければなりません。 過去に撮ったヒョウタンゴケの写真を見直してみたところ、いろいろな気づきがありました。

 ヒョウタンゴケは明るい裸地を好むコケです。 特に焚火の後などに大きな群落を作ったりします。 これは、胞子体は大きいのですが、配偶体は小さく、他の植物などに上を覆われると生きていくのが難しいのだと思います。 そのため、私はヒョウタンゴケは「漂泊のコケ」だと思っていました。 大きな胞子体で大量の胞子を作り、胞子は新たな裸地を求めて四散し、この大量の胞子生産にエネルギーを使うために配偶体は枯れ、その場には残らないと思っていました。 また、育つことのできる場所に行き当たるのが運任せなら、胞子の発芽時期もバラバラだろうと漠然と思っていました。
 ところが、過去9回撮っていたヒョウタンゴケの写真を見比べてみたところ、生育環境により半月前後の違いはあるものの、かなりきちんと季節に合わせたライフサイクルを持っていることが分かりました。
 また、胞子はこれまで育っていた場所にも落ちるので、その場所で育つことができる条件が続いているなら、同じ場所で長期間生活し続ける場合もあることも分かりました。 少なくとも3年間同じ場所で育っていることも確認しました。

 以下、ヒョウタンゴケの大阪付近の季節変化を順に並べておきます。

 上は帽だけでなく、蒴も蒴柄も姿を見せた状態です。 このような姿は1~3月に見ることができます。

 3月になると、蒴が膨らみ始め、早い所では帽も外れ始めます(上の写真)。 3月の様子はこちらこちらにも載せています。

 4月になると、帽が取れた蒴が多くなります(上の写真)。

 5月になると胞子体が色づきます。 上の蒴も、まもなく胞子体の散布を始めるのでしょう。 蓋の取れかけた蒴の様子はこちらに載せました。

2025-01-17

ハマキゴケの蒴と葉

 蓋の取れた蒴をつけたハマキゴケ Hyophila propaguliferaこちらにも載せていますが、帽のある蒴をつけたハマキゴケを載せるのは初めてです。
 上の写真で、ピントの合った3本の蒴のうち、右の1本は何者かに齧られていますが、左の2つの蒴には帽がついています。

 ハマキゴケの帽は、基本的には僧帽形ですが、ねじれて壺を抱いています。 上の写真では、長い角のある蓋も透けて見えています。

 葉は広楕円形~広舌形で全縁、長さは 1.5~2㎜、中肋は葉頂に達しています(上の写真)。

 上は葉身細胞を背面から撮っています。 細胞の幅は5~8μmです。

 上は葉の横断面です。 葉身細胞は腹面側でマミラ状、背面でほぼ平坦です。 中肋はガイドセルをはさんで背腹両面にステライドがあります。

(2025.1.11. 神戸市北区)

◎ ハマキゴケの葉の乾湿の変化などはこちらに、無性芽などについてはこちらこちらに載せています。

2025-01-16

ヤナギゴケ@1月

 湿った土上にヤナギゴケ Leptodictyum riparium がありました(上の写真)。

 よく見ると、あちこちで胞子体が立ち上がり始めています。 春のかすかな気配を感じます。

 茎は横に這い、不規則に分枝しています。 茎頂近くの葉はほとんど広がっていません。

 葉の長さは平凡社では 1.5~2㎜となっていて少し短めですが、平凡社には「(本種の)配偶体は環境による変異が著しい。」とあります。
 上の写真では中肋がどこまで延びているのか分かりにくいのですが・・・

 中肋は葉長の3/4近くにまで延びています。

 葉の先端は長い細胞です(上の写真)。

 翼細胞は矩形で少数です(上の写真)。

 上は葉身細胞です。

(2025.1.11. 神戸市北区)

◎ ヤナギゴケはこちらにも載せています。

2025-01-15

雌器托が枝分かれしたゼニゴケ


 枝分かれした雌器托をつけたゼニゴケ Marchantia polymorpha subsp. ruderalis です。 蒴柄が枝分かれしていると大変ですが、雌器托は配偶体の一部ですから(こちら)、枝分かれしていても大騒ぎすることもないでしょう。
 一方、枝分かれしている雌器托が珍しいのも事実です。 しかしこの場所では、あちこちで枝分かれしている雌器托が見られました。 何らかの遺伝的な変異を伴っているのか、環境的な要因があるのか、興味のあるところです。

(2025.1.11. 神戸市北区)

2025-01-13

ナシガタソロイゴケ

 写真は2024年11月に京都府南丹市の美山で採集され、しばらく育てられた後に分けていただいたもので、ナシガタソロイゴケ Solenostoma pyriflorum だそうです。 この類は私には雌花序が無いとお手上げで、同定された結果を信じるしかありません。 平凡社ではブナ帯以上に分布となっています。
 なお、上の写真のスケールの最小目盛りは 0.1㎜です。

 平凡社では葉は長さ 0.8~1㎜となっていますから、上の写真はそれより少し小形です。

 葉は円形で円頭です(上の写真)。

 上は葉身細胞です。 下はもう少し倍率を上げて細胞壁に焦点を合わせた写真です。

 細胞壁は薄壁で、トリゴンが発達しています。

2025-01-08

ミミケビラゴケ

 いただいたケビラゴケ属の標本の5種目はミミケビラゴケ Radula chinensis です。 2005年時点で報告されている本種の分布地は、広島県、岡山県、石川県、岐阜県、東京都(奥多摩)のおもに石灰岩地に限られていて、絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。 

 植物体は黒みを帯び光沢があるようですが、変色してしまった標本では、そのことは分かりません。

 上は光の透過を保つために細い枝を選んで撮っています。 本種の腹片は大きく茎を覆っています。 茎や太い枝の大きな葉の腹片は、もっと丸みを帯びます。 腹片の基部は耳状に発達するのですが、上の写真ではよくわかりませんので、下に腹片のアウトラインを書き加えたものを載せておきます。

 腹片だけを取り出せばいいのですが、標本が破れやすくなっていて、できませんでした。

 上は背片です。 写真の下方が少し破れています。 背片も腹片同様、基部が耳状になるのですが、そのことがよくわかるように背片を取り出すことはできませんでした。

【参考にした文献】
樋口正信:東京都奥多摩のミミケビラゴケ. 蘚苔類研究9(1). 2005.

 これで1月4日から載せてきたケビラゴケ属シリーズは終わりにします。

2025-01-07

タカサゴケビラゴケ

 いただいたケビラゴケ属の標本の4種目はタカサゴケビラゴケ Radula formosa です。 琉球列島に分布しています。

 腹面から見ると、たくさんの尾状枝をつけています。 同じケビラゴケ属でチャケビラゴケも尾状枝をつけますが、本種の腹片は茎や尾状枝の基部を覆っていませんので、印象はかなり異なります。

2025-01-06

トゲケビラゴケ

 写真はトゲケビラゴケ Radula anceps、いただいたケビラゴケ属の標本の3種目です。 八重山列島に分布しています。

 背片は広卵形で、葉先は内曲している葉が多くて少し分かりにくいのですが鋭尖で、鋸歯があります。 このようなケビラゴケは他にはありません。

 上は葉身細胞です。


2025-01-05

マガリシタバケビラゴケ

 上はマガリシタバケビラゴケ Radula retroflexa、分けていただいたケビラゴケ属の標本の2種目です。 分布は八重山列島と小笠原です。

 本種の背片は接在しています。 分かりにくいので、上はできるだけ背片が離れている所を撮っています。 背片は円頭で全縁、キールは直線状で、背片はキールを過ぎた所で大きく鎌状に曲がっています。 腹片は菱形です。

 葉身細胞はトリゴンが無く、細胞壁にくびれがあります(上の写真)。 油体が各細胞に3~5個あるのも特徴ですが、残念ながら油体はほとんど崩れています。 なお、上の写真は色を補正してあります。

 上は茎の断面です。

2025-01-04

オビケビラゴケ

 ケビラゴケ属の標本を分けていただく機会があり、しばらく(今の予定では5回)その標本を観察した結果を載せる予定です。 標本ですので、生きた状態の色ではありませんし、油体は消えています。
 今回はオビケビラゴケ Radula campanigera ssp. obiensis です。 絶滅危惧Ⅱ類に指定されているコケで、宮崎県と鹿児島県に分布しています。 和名も宮崎県日南市の飫肥(おび)に由来しているのだと思います。



 Radula(ケビラゴケ属)としては、やや大形です。 背片は円頭、腹片は丸みを帯びており、茎をほとんど覆いません。

 茎の断面で、皮層の細胞は厚壁です(上の写真)。