7月も半ばを過ぎ、ヒオウギ Iris domestica の花が盛んに咲く頃となりました。 上は2015年に大阪市の長居植物園で撮影したものですが、今年もよく咲いていました(下の写真:2020.7.19.撮影)。 京都の祇園祭や大阪の天神祭で、床の間や軒先に飾られる花です。
オシベは3本、メシベは細長い漏斗状で、柱頭は浅く3裂しています。 草地や海岸に自生する多年草ですが、自生の姿を見ることは少なくなりました。
葉はアヤメ科らしく単面葉(葉が2つ折りになってくっつき、裏面しか見えていない)です。 和名はこの葉の重なる様子を、ヒノキの薄版を重ねた扇(檜扇:ひおうぎ)に見立てたところからと言われています
いちばんはじめの写真の下方に若い果実が写っていますが、この果実は熟すと裂け、中から真っ黒な種子が姿を現します。 上の2枚は 10月下旬の撮影で、黒い種子の周辺の薄茶色のものが果皮です。
この黒い種子は「ぬばたま」「うばたま」などと呼ばれていて、和歌で「黒」「夜」「夕」「宵」「髪」などにかかる枕詞としての使用は、万葉の世界から見られます。
ぬばたまの夜(よ)の更け行けば久木(ひさき)生ふる清き川原に千鳥(ちどり)廔(しば)鳴く
(万葉集 925 山部赤人)
黒玉(ぬばたま)の夜さり来れば巻向(まきむく)の川音高しもあらしかも疾(と)き
(柿本人麻呂歌集 巻7-1101)