2020-06-28
テイカカズラの花
テイカカズラ Trachelospermum asiaticum はキョウチクトウ科のつる性常緑低木です。 和名は謡曲「定家」に由来しています。
謡曲「定家」:
賀茂の斎院だった式子内親王は藤原定家と人目を忍ぶ深い契りを結びましたが、世間に漏れ、逢えぬまま亡くなりました。 それ以来定家の執心が、葛となって内親王の墓にまといつき、内親王の魂もまた安まることがありませんでしたが、旅の僧の法力によって成仏し、テイカカズラにまといつかれた墓の中に帰ります。
テイカカズラの花の色は歌人藤原定家の心の色かもしれません。 ところがこの花、外見は清楚ですが、生殖器官としての花のつくりとなると、さすがにキョウチクトウ科の花、なかなか複雑です。
上は花の中央部を見たものですが、中心に円錐形のものが見えるだけで、オシベもメシベもはっきりしません。 白く芳香のある花は、夜の蛾による花粉媒介を思わせます。 円錐形の周囲の5つの穴は、蛾が口吻を差し込む所なのでしょう。
上は花を横から見たものです。 ガク片は5枚、色の付いた花筒が長く伸びています。 この花の断面を作ってみると・・・
上の花の断面を見ると、写真の左側に子房があり、そこから花柱が長く伸び、三角錐の部分に入っています。 三角錐の部分はゴチャゴチャしているうえに花粉があって分かりづらくなっています。
上は花粉が出る前のツボミの三角錐付近の断面です。 花粉の入ったオシベの葯が三角錐の内側にあります。 つまり花粉は花の外にではなく、三角錐の内側に出されます。
上は咲いている花の三角錐付近の断面です。 花粉が三角錐の外側に出ていますが、これは断面を作る時に出たものです。
この花は蛾にどのように花粉媒をさせようとしているのか、考えられるシナリオは次のようになるでしょう。
他の花で吸蜜し、口吻に花粉をつけた蛾が飛来したとしましょう。 蛾は三角錐の周囲にある穴から口吻を差し込み、花筒の底にある蜜を求めて口吻を伸ばします。 さて、蜜を吸い終え、口吻を抜こうとした時です。 どうやら花筒の内側に生えている毛によって、口吻は三角錐の細い隙間に誘導されるようです。 そして口吻を抜く過程で、口吻に付けていた他の花から運んできた花粉は拭われて①にくっつき、②の所で粘液をつけられ、その粘液に③の花粉がくっつく、ということになるようです。 花粉を受け取るメシベの柱頭は①の場所にあります。
※ 上は、Part1の2014.6.14.の記事にエラーが出ているため、少し加筆のうえ、こちらに引っ越しさせたものです。