長野県・蓼科の渋川沿いの湿岩上に育っていた写真のコケ(2021.10.6.撮影)、大阪付近でもよく見るシタバヒシャクゴケ Scapania ligulata だと思いますが、その結論に達するまで、かなりの時間を要しました。
理由はいろいろあるのですが、1つは本種の変異の幅が大きいことでしょう。 チャボヒシャクゴケは本種のシノニムですが、少し前までは別種とされていましたし、平凡社の図鑑のヒシャクゴケ属の検索表では、シタバとチャボは検索表のかなり離れた所に出てきます。 また、この検索表をたどるには、かなり微妙な違いを見分けなければなりません。
それに、分布も平凡社の図鑑ではシタバは西南日本の渓谷、チャボは本州~琉球の低地(キッパリ!)となっていて、標高 1.500mほどの所にあるとは思わず、検討対象から除外していました。
また本種は大阪付近では似たものがほとんど無く、簡単に同定してしまい、振り返ってみれば、これまであまりきっちりと観察していませんでした。
植物体は赤みを帯び、特に花被の赤い色が目立ちます。 葉の大きさにも差異があり、腹片の長さは小さなものでは0.5mmほどで、ふつうは茎頂に近づくほど大きくなり1mmを越えます。
上は背面から撮っています。 葉は接在しています。
上は茎頂付近の手前の葉を取り去り、分枝の様子を見ています。 上の場合は腹面からのムチゴケ分枝をしていますが、他の場所では側面からの分枝も見られました。
上は写真の上方が腹面で、手前の葉を取り去り、腹片の腹縁基部が長く下延していないことを確認しています。 仮根は白く、茎の腹面中央から出ています。
上の2枚はは葉で、1枚目は背片と腹片を重ねて、2枚目は広げています(左が背片、右が腹片)。 背片も腹片も形に変化があるのですが、概ね背片は卵形~矩形で腹片の3/5~3/4長 腹片は楕円形で、縁は鋸歯状です。 キールは、平凡社では腹片の約2/5長となっていますが、これもかなりばらつきがあります。
上はキールの部分で、狭い翼があるように見えます。 平凡社の検索表では、チャボには明瞭な翼があり、シタバには翼は無いことになっています。
葉縁の歯は三角形で、ほとんどの歯は1~3細胞からなっていました。 平凡社の検索表では、チャボの歯は3~8細胞、シタバは歯についての記載がありません。
上は葉身細胞で、トリゴンは小さく、やや厚壁です。
上は花被の口周辺です。 下は上の赤い四角で囲った部分の拡大です。
最初に書いたように同定でいろいろ悩み、M氏から尼川先生のヒシャクゴケ属のスケッチを送っていただきました。 ここには本種の花被の口の図も載せられていました。 花被はいつもついているとは限りませんが、花被の口の様子も同定にかなり役立ちそうです(例えばオオヒシャクゴケのそれと比較してみてください)。
◎ シタバヒシャクゴケはこちらやこちらにも載せています。
0 件のコメント:
コメントを投稿