平凡社の図鑑では日本産クラマゴケモドキ属全15種の検索表が載せられています。 腰を据えてきちんと調べるにはこの検索表を使うべきでしょうが、初心者にはなかなか使いにくいのも事実です。 例えば、この検索表ではキールの有無から始まっていますが、キールの有無は分かりにくく、確認に光学顕微鏡が必要な場合もあります。
クラマゴケモドキ属は、植物体の大きさや色、光沢などが種によって異なり、外観で判別できる場合も多いのですが、大きさも見慣れていれば分かりますが、初心者にとっては、2種を並べればどちらが大きいかは分かりますが、1種だけで大きいか小さいかの判断はできません。 色や光沢の違いも、経験があってはじめて分かることでしょう。
そこで、よく見られるクラマゴケモドキ属に限り、初心者でもできるだけルーペで見当がつけられる(と思われる)検索表を作成してみました。 もちろん、クラマゴケモドキの仲間だと見当がつけられ、背片、腹片、腹葉が分かり、湿らせて観察することが前提ですが・・・。
使ってみての感想やご意見をいただければ幸いです。
【 検索表 】
1 背片は全縁で円頭。 ・・・・・ オオクラマゴケモドキ
1 背片の先は歯または長毛があるか尖る。 ・・・・・ 2
2 背片の縁にも歯がある。石灰岩地。 ・・・・・ カハルクラマゴケモドキ
2 背片の縁はほぼ全縁。 ・・・・・ 3
3 腹片は比較的よく目立ち、全縁または先端に1~2歯がある。 ・・・・・ 4
3 腹片は比較的よく目立ち、長毛または長歯がある。 ・・・・・ 5
3 腹片は細長く、茎に接するように存在し、あまり目立たない。 ・・・・・ 7
4 腹葉は円頭で全縁。 ・・・・・ シゲリクラマゴケモドキ
4 腹葉は円頭で先端に1~2歯がある。 ・・・・・ サンカククラマゴケモドキ
4 腹葉は切頭で歯がある。背片の先は長く漸尖する。 ・・・・・ ヒメクラマゴケモドキ
5 背片の先はほとんど曲がらない。背片の先にも腹片にも腹葉にも長毛がある。
・・・・・ クラマゴケモドキ
5 背片の先は内曲する。背片の先にも腹片にも腹葉にも歯がある。 ・・・・・ 6
6 腹葉は基部が最大幅、ブナ帯以下。 ・・・・・ ニスビキカヤゴケ
6 腹葉は中ほどが最大幅、ブナ帯以上。 ・・・・・ ケクラマゴケモドキ
7 背片と腹片の接続部(キール)はごく短い。 ・・・・・ ヤマトクラマゴケモドキ
(本州の埼玉県以西と四国の石灰岩地にはよく似たタカキクラマゴケモドキがある)
7 背片と腹片の接続部(キール)は明瞭。 ・・・・・ トサクラマゴケモドキ
2025-03-28
よく見られるクラマゴケモドキ属の検索表
2025-03-27
ホソウリゴケ
場所からも雰囲気からもホソウリゴケ Brachymenium exile だと思った写真のコケ、これまで蒴は観察したことが無く、古い蒴がついていたので持ち帰って調べました。 育っていたのは街の道路の隅です。
上の2枚は乾いた状態で、乾くと葉は縮れず、茎に接着します。
平凡社などでは、ホソウリゴケの茎の長さは5㎜以下となっていますが、上の2枚の写真では1cm前後の高さがあります。 これはホソウリゴケではないのでは? と心配になってコケサロンで聞いたところ、「5㎜以下」というのは緑色をした元気な所の高さだろうということでした。 たしかに上の写真の白い線を引いた所でとても切れやすくなっていて、線以下の所は色も少し異なり、前年の(枯れた?)部分のようです。
上は葉で、長さは平凡社では 0.6~1㎜となっています。 中肋は葉先から短く突出します。
葉身細胞は狭菱形~狭六角形、 葉縁の細胞は細長くなっていますが、舷と呼べるほどではありません(上の写真)。
仮根の表面には、多くの細かいパピラがあります(上の写真)。
最初の写真でもよく見ると、あちこちの葉腋に無性芽がついているのが写っていますが、いろいろ観察していると、無性芽がポロポロ落ちます。 それを集めて撮ったのが上の写真です。
最初の写真にも写っていますが、上のような若い胞子体もありました。 時期的に、まだ造卵器も見られるのではないかと思い、探してみたところ、やはりありました。
造卵器は上の白い円で囲った膨らみの中にありました。
上は苞葉を取り除いて撮った雌器で、造卵器と側糸が写っています。
本種は雌雄異株です。 ですから卵細胞と精子が出会いにくく、胞子体があまり作られないのでしょう。 しかし、この群落では胞子体ができています。 雄株も混じっているのではないかと探したところ、造精器もみつけることができました。
上の茎頂の膨らみが造精器の入っていた所です。
上のバナナのようなものがが造精器です。 もっとたくさんあったのですが、葉を取り去る過程で外れてしまいました。
(2025.3.8. 滋賀県野洲市 市街地の道路の端)
◎ ホソウリゴケはこちらやこちらにも載せています。
2025-03-26
マイマイツボミゴケ
マイマイツボミゴケ Solenostoma torticalyx だというタイ類(上の写真)をいただきました。 同定にポイントとなる花被は無く、油体も消えてしまっていて、私には同定を信じるしかありませんが・・・。 なお、上のスケールの最小目盛は 0.1㎜です。
葉は円頭で、幅が長さと同じかより広い葉が多いようです。 仮根は束にならず、茎に沿って流下していません。
上は葉身細胞で、小さなトリゴンがあります。 本種ならブドウ房状の油体があるはずですが、採集から時間が経っているためか、消えてしまっています。
仮根は赤紫色で、茎の腹面からまばらに出ています。
2025-03-24
ヤナギハムシ
昨日(2025.3.24.)、コケの上を歩くヤナギハムシ Chrysomela vigintipunctata を見ました(上の写真:大阪府交野市で撮影)。 和名は「ヤナギ類の葉を食べる虫」の意味です。 ヤナギの葉も開いていない時期ですので、成虫越冬から目覚めて歩き出し、これからヤナギの枝に産卵するのでしょう。 そのことの確認を兼ねて、過去に撮った本種の写真を拾い出してみました。
上は4月20日(2013年)に撮った本種の幼虫で、ヤナギの葉をたべています。
上は5月25日(2012年)に撮った新成虫です。 1枚目の写真と比較すると、上翅が黄色っぽいですが、本種の未成熟個体の上翅は黄色く、次第に朱赤色に変化します。 なお、黒い斑紋の大きさには変異があり、極端な場合には消失する場合もあるようです。
2025-03-18
アツブサゴケモドキ
写真はアツブサゴケモドキ Palamocladium leskeoides でしょう。垂直に近い岩から垂れ下がっていました。
上は乾いた状態で、下は同じ枝の湿った状態です。 湿ると枝の曲がりは伸びますが、葉の開き方はほとんど変化しません。
葉は密生していて、茎はほとんど見えません。
上の2枚の写真は葉です(茎葉と枝葉でほとんど違いはありません)。 葉は長さ 1.5~2㎜、三角状披針形で、深い縦じわがあります
上は葉先です。 中肋は葉先近くに達しているのですが、葉先近くではやや不明瞭です。
翼部には短い細胞が集まり、暗くみえます(上の写真)。 葉縁には全周に細かい歯があります。
葉身細胞は長楕円形~線形でやや厚壁、長さは 30~50μmです(上の写真)。
(2025.2.12. 西宮名塩~武田尾の廃線敷)
◎ アツブサゴケモドキはこちらにも載せています。 またこちらには胞子体をつけた本種を載せています。
2025-03-16
顕微鏡の光源にCOBライトを使ってみました
私の使っている顕微鏡はかなり古いもので、光源はハロゲンランプです。 ハロゲンランプは電球の一種ですから、熱は出るし寿命も短いので、LEDに変えたいと思っています。 しかし顕微鏡の光源を変換するためのLED光源は、需要が限られていることもあって、かなり高価です。 下にLEDライトを置くことも考えましたが、うまく置けるようなものは見つけられません。 そのうちに自作でもしようかと思いながらハロゲンランプを使い続けています。 が・・・
ダイソーで上のような COB LED を使ったライトをみつけました。 写真右下がライト、左が入っていた箱で、大きさが分かるように右上に10円硬貨を置きました。 値段は消費税込みで330円、顕微鏡の光源に使えるかもしれないと、購入して確かめることにしました。
COBとは Chip On Board の頭文字で、基板(ボード)の上に多くの LEDチップを直接並べた構造を意味します。 上の写真のものでは6×5個のLEDチップが並んでいました。
上のライトは充電式ですのでとても薄く、顕微鏡光源の位置に簡単に置けます。 一般に、COB LED は発光面が広く広範囲を照らすことができる反面、遠距離への照射には不向きとされていますが、顕微鏡の光源からレンズまでの距離なら問題ありません。 明るさも、もう少し明るい方が良いのですが、40×10でも、どうにか使えます。
上は、いつもと同じように明るさやコントラストなどの補正をしていますが、ハロゲンランプに代えて上記のCOBライトを光源にして撮ったツクシナギゴケモドキ(2025.3.8.採集)の葉とその細胞の写真です。 同じ顕微鏡で撮ったハロゲンランプを使ったこちらの写真と比較しても、見劣りしません。
ただ、330円で理想的な顕微鏡光源が入手できるなら話がうますぎます。 この文は、私のように光源が LEDでない顕微鏡や、反射鏡だけで光源の無い顕微鏡を使っている人の参考になればと思って書いていますが、顕微鏡光源として使うには、いろいろと欠点もあります。 以下、私が感じた欠点を箇条書きにしました。
- 上にも書いたように、私の顕微鏡は LEDが無かった時代の古い顕微鏡ですが、当時の顕微鏡としては高級品で、絞りなどは細かい調整が可能です。 上の写真も対物レンズによって絞りの上下の位置を大きく変えて撮っていますが、この調整が面倒です。 また、絞りの位置を上下に移動できない顕微鏡ではどのように写るのか、分かりません。
- LEDが奥にあるのではなく表面に出ていますから、横から見ても眩しいのが困ります。 製品の注意書きにも「人の目に照らしたり、向けたりしない。人の目に障害を与えるおそれがあります。」と書かれています。
- 顕微鏡を覗いている時は問題ないのですが、カメラで撮ろうとすると、人の目より明暗の変化を敏感にとらえることができるのか、カメラモニター上ではちらつきます。 写真にするとちらつきの縞は写らないと思いますが、これもシャッター速度やカメラの種類によっては違いがあるかもしれません。
- DC5V、0.7A以下で充電する必要があります。 スマホの充電器では電流が強すぎます。 オリンパスのTGシリーズの充電器は使えますが、Type-Cケーブルを準備する必要があります。 これらが無い場合は充電器を別途購入する必要があります。
- 内臓バッテリーは小さく、点灯時間は通常の使用で1時間半です。 ブースター機能が内蔵されていて、さらに強く光らせることもできますが、この場合の点灯時間は1時間です。 点灯しながらの充電はできない仕様のようですので、長時間の顕微鏡観察には数個準備しておく必要があります(といっても、3個購入しても 1,000円未満ですけどね)。
以上、ダイソーで330円で購入できるCOBライトが顕微鏡の光源として使用できるかを検証したレポートでした。 このライトは、裏面に立てるための脚もついていますし、磁石もついていますので、スチール製の何かにくっつけて使うこともできます。 また、三脚用の穴もありますので、ミニ三脚につけて使うこともできますし、カラビナもついています。 工夫次第でいろいろな使い方ができそうです。
2025-03-14
マルグンバイ
写真はマルグンバイ Acalypta sauteri です。 コケ群落を調べていてみつけました。 体長は約2㎜です。
グンバイムシ科の昆虫はふつう軍配のような形の体なのですが、マルグンバイ属はグンバイムシ科の中では珍しく、あまり軍配形ではありません。
私が昔昆虫に熱心だった頃、グンバイムシの写真もたくさん撮っていたのですが、本種も見てみたい種の1つでした。 その頃はマルグンバイ属は3種が知られていたのですが、この文を書くのに調べてみたところ、相馬純(2025)(下記参考資料)ではマルグンバイ属は9種になっていました。
グンバイムシの多くは特定の植物に依存しています。 本種も特定のコケに依存しているのか興味あるところですが、今回いたのは多種のコケが混生している所でした。 また、活動が低下している時期ですから、群落に潜り込んで越冬していたのなら、吸汁しているコケから離れていた可能性もあります。
上は腹面から撮っています。 針状の口器が見えますが、これをコケに刺して吸汁するのでしょう。
(2025.3.8. 滋賀県野洲市)
【参考資料】
相馬 純,2025:日本産グンバイムシ科標本写真集
https://sites.google.com/view/junsouma/japanese-tingidae
2025-03-13
2025-03-12
ノコギリコオイゴケ
ノコギリコオイゴケ Diplophyllum serrulatum が花被をたくさんつけていました(以下の生態写真を含め、全て 2025.3.8.に滋賀県野洲市で撮影)。
花被の高さは1~1.5㎜でした。
※ この花被の中で育った胞子体が伸びた様子はこちらに載せています。
上は花被の口の様子です。
ノコギリコオイゴケも見かけはいろいろ変化します。 上はミドリコケビョウタケに寄生されたためか、元気の無い状態、下は葉を密につけた状態です。
上は葉の重なりが強く、背片と腹片が見分けにくい状態です。 そのこともあって、以下は上の写真の葉を何枚か調べた結果です。 なお、こちらでは茎についた状態の葉を、もう少し詳しく観察しています。
上のように並べてみると、背片と腹片の大きさの比にも、腹片の先の様子にも、鎌状に曲がる程度にも、変異が見られます。
上は腹片中央の細胞です。
2025-03-09
花被のあるトガリスギバゴケ
朽木上に広がるトガリスギバゴケ Kurzia gonyotricha が、花被をつけていました。 ほんのわずかな数の褐色の花被が目立っていましたが・・・
群落をほぐすと、多くの緑色の花被が隠れていました(上の写真の黄色の矢印)。 しかし花被の中の胞子体は確認できませんでした。 時期が少し早いのでしょう。
葉の大きさに比べて大きな花被です。 配偶体が細くても、とても小さな胞子は考えられませんから、胞子体にはある程度の大きさが必要なのかもしれません。
細いコケで、葉を含めた茎の幅は 0.2㎜ほどしかありません。
葉は曲がり、基部まで深裂し、裂片の先は和名のとおり尖っています。
葉は基部まで3~4裂しています。 上の葉は裂片の先がありませんが、どういうわけか、このような葉があちこちに見られました。
腹葉は葉より小さく6細胞ほどからなり、2裂しています(上の写真)。
(2025.3.8. 滋賀県野洲市)
◎ トガリスギバゴケはこちらにも載せています。