2025-03-06

『ミクロの世界のコケ図鑑』の一部掲載種の科名変更

 コケ植物の種名を覚えるにも、より深く理解するにも、その種がどの科に分類されているかが大切になります。 同じ科であれば何らかの共通点があるので、複数の種をまとめて理解することにつながりますし、逆に何らかの特徴から科が分かれば、種名はその科の中で検討できます。
 このほど、「日本産セン類の分類表」が出ました(詳しくはこちら)。 セン類の分類に関しては、当面はこの分類表がベースになると思います。
 『ミクロの世界のコケ図鑑』ではコケ研究の専門家ではない強みを活かして、かなり踏み込んで新しい科名をつけたつもりですが、上記の分類表に従うと、さらに下のように科名を訂正する必要があります。 以下は、載せている図鑑のページ、種名(和名)、上記の分類表に従った科名 の順に書いています。

p 38 ナシゴケ ヌマチゴケ科
p 51 アカイチイゴケ サナダゴケ科
p 77 ススキゴケ ススキゴケ科 (新しく作られた科です。)
p100 ダチョウゴケ キヌゴケ科
p100 クシノハゴケ ナワゴケ科
p106 カゲロウゴケ センボンゴケ科
p128 ハチヂレゴケ チヂレゴケ科
p129 ナガバチヂレゴケ チヂレゴケ科
p129 シナチヂレゴケ チヂレゴケ科
p130 チヂレゴケ チヂレゴケ科
p150 キャラハゴケ キャラハゴケ科
p151 ヒラハイゴケ チリメンゴケ科
p151 シワラッコゴケ キヌゴケ科
p157 ヒメコクサゴケ トラノオゴケ科 (コクサゴケ科はなくなりました。)
p157 ラセンゴケ シノブゴケ科に戻りました。
p187 クサゴケ クサゴケ科
p194 コクサゴケ トラノオゴケ科
p194 ミヤベゴケ ミヤベゴケ科
p195 オオギボウシゴケモドキ ヒラゴケ科
p220 ノコギリゴケ ハイヒモゴケ科 (ムジナゴケ科はなくなりました。)
p230 カギハイゴケ カギハイゴケ科

 このブログで『ミクロの世界のコケ図鑑』関する情報をお知らせできるのも、この図鑑の強みの1つです。 ぜひ最新の分類に基づいて、コケに関する理解を深めていただきたいと思います。
 なお、このブログの「セン類 掲載種一覧①」と「セン類 掲載種一覧②」も上記分類表に従って組み換えなおすつもりですが、これにはかなりの時間がかかりますので、少しずつゆっくりとやっていくつもりです。 気長にお付き合いください。
 

2025-03-05

井上・山口(2024)の「日本産セン類の分類表」について

  平凡社の『日本の野生植物 コケ』(2001年発行)には、日本産のコケの(当時分かっていた)すべての種の検索表が載せられていますが、発行から四半世紀が経ち、その間、コケ植物の分類体系は分子系統学的手法を取り入れることで大きく変更されています。
 コケ植物の多様性を体系的に把握するには種までの分類表が望まれます。 コケ植物全体の系統は、COLE T.C.H. ら(2023)の「コケ植物系統樹ポスター」で俯瞰することができるのですが、ここで示されているのは目と主な科までです。
 タイ類・ツノゴケ類については、片桐・古木(2018)の分類表と種名チェックリスト(下記文献)がありますが、蘚類については、これまでこのようにまとめられたものはありませんでした。 日本産セン類の種名目録は鈴木(2016)にあるのですが、それぞれの種の属する科は分かりません。
 このような状況下にあって、昨年、望まれていたセン類の新しい分類表が示されました。
 井上侑哉・山口富美夫:日本産セン類の分類表. Hikobia19(2). 2024.
です。
 この論文では、2023年12月末までに出版された文献に基づき、日本から報告されているセン類の分類群について、綱・亜綱・目・科・属の分類表が載せられています。 種までは載せられていませんが属まで分かると、ほぼなんとかなります。(本分類表の基礎にもなっている種名についても、日本産セン類チェックリストが近く出版されるようです。) なお、この論文は、2025年1月20日からは J-STAGE からダウンロードできるようにもなりました。

ハイゴケ科から新しく作られたクサゴケ科に移されたクサゴケ(2025.2.12.撮影)

  分類は現在理解されていることの集大成と言えるでしょう。 研究が進むにつれ、これからも分類は変化するでしょうが、セン類に関しては当面はこの分類表がベースになるでしょう。 『ミクロの世界のコケ図鑑』もこの分類表に従って見直しを行いました(こちら)。

【参考文献】
片桐知之・古木達郎:日本産タイ類・ツノゴケ類チェックリスト,2018.Hattoria 9.

2025-03-03

ホソハリゴケ

 写真はホソハリゴケ Claopodium gracillimum でしょう。 細かい砂質土壌の斜面で育っていました。
 ところで、コケ植物の分類体系は分子系統学的手法を取り入れることで大きく変更しています。 Claopodium(ハリゴケ属)も、下に書くように葉身細胞にパピラがあって、平凡社ではシノブゴケ科になっているのですが、その後、キヌイトゴケ科が妥当とされたり、形態的に類似点のあるノミハニワゴケなどのHaplocladium(コメバキヌゴケ属)と同じウスグロゴケ科が妥当とされたりしましたが、下記の井上・山口(2024)では、アオギヌゴケ科に分類されています。
 井上侑哉・山口富美夫:日本産セン類の分類表. Hikobia19(2). 2024.
 (詳しくはこちらに書いています。)

 最初のような写真では大きさがよくわかりませんが、小形で、あまり目立たない種です。 上のスケールの数字の単位はmmです。

 葉は卵形の基部からやや急に細くなり、葉先は細長く尖っています(上の写真)。 基部はほとんど下延せず、葉縁は反曲していません。

 枝葉の中肋は葉先近くで終わっています(上の写真)。 なお、本種によく似たハリゴケの枝葉の中肋は葉先に達しています。 葉縁の細胞は葉身の細胞とほぼ同じです。

 上は葉身細胞で、各細胞に1個のパピラがあります。 

(2025.2.12. 兵庫県西宮市)

こちらには蒴をつけたホソハリゴケを載せています。